招かれざる客

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招かれざる客

 新は、毎日毎日、暇さえあれば店を訪れた。 「こんにちは。和泉ちん」 「その呼び方は止めてくださいっ!」 「えー、なんで?」 「それに、どうして毎日来るんですか?お仕事は?暇人ですか?」 「質問が多いね?俺、先週まで海外だったの。仕事は所謂、バイヤーってやつ。世界中の古書を探して回ってる。それで、1年ほぼ休みなしでグルグル回ってたから、1ヶ月のお休みなの。だから暇人」 「…」 「ん?ああ…どうして毎日来るかというと、この店が好きだから」 「…すき、ですか?」  思わぬ和泉の食いつきに、新も饒舌に語りだす。 「ここの空気、匂い、長い年月残ってきた様々な言葉たち。堪らないね」 「そうですね…。そう思います。だから、早雲さんから継がないかって言われて…躊躇しませんでした」  そう言って、和泉は少し淋しさを滲ませて笑った。  そんな時、店の入り口を乱暴に開けて入って来る客に、  和泉の身体が強張った。 「和泉!!」 「…お母さん」  新は、和泉の緊張にすかさず反応した。 「申し訳ありませんが、お客様でなければお帰り下さい」 「何ですかあなたは!? 私はこの子の母親です!! さぁ和泉、帰ろう」  目の前が真っ暗になる。何より、居場所を知られたことで、  和泉はまた、あの地獄に戻らなければならないのかと、愕然とする。  新は、そんな和泉を自分の背中で隠し、母親を見据えて言い放つ。 「彼女は、あなたから搾取され続けてきました。もう充分でしょう?それに、あなたのやっていることは、子供に対する虐待です」 「何て言い草!! 子供が親の面倒を見るのは当然でしょう!? 家はぐちゃぐちゃなの!帰って来てもらわないと困るの!!」 「あなた、見る限り五体満足ですよね?働けるでしょ?働け。自分で片付けろ。彼女は私の伴侶です。これ以上の暴言は看過しません」 「な…」  新の言葉もさることながら、それ以上に鋭く睨まれて、  母親は、すごすごと退散するしかなかった。  真っ青になって震える和泉に、新はそっと寄り添う。 「大丈夫?ごめんね…。勝手なことを適当に言って」 「…ぃぇ、ありがとうございました。でも…」  和泉の疑問も分かっているという新は、  懐から手紙を取り出し、和泉に渡した。 「これは?」 「早雲さんから来た手紙。読んでみて?」  和泉は、促されるまま手紙を読む。  そこには、  和泉の家族からの仕打ちの全て。  和泉の心の傷の深さ。  そして、心を閉ざし、他人を信用しない和泉を、  どうか様々な不安から、護ってやって欲しい。  手紙は、早雲の和泉に対する気遣いで溢れていた。
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