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外国人?
こういう時、なんて声をかけたらいいのだろうか。
保健体育の授業では、相手の肩を叩きながら、意識の有無を確認していた気がする。
ただ、そもそもこの青年に日本語は通じるのだろうか?
とりあえず、腕をつついてみた。筋肉が意外と柔らかくて、なぜか興奮している自分がいた。
「ん、んーー。」
青年が目を開いた。水色の瞳が私をじっと見つめた。吸い込まれそうなその瞳は、ラムネ玉のように透き通っていた。青年が起きあがろうとする。なかなか腕に力が入らないようなので、近くの壁にもたれかけさせた。父と祖父以外の男性に触れるのは久しぶりで、ドキドキと、心臓の音が聞こえてきた。
「Can you speak English?」
なかなか返答がない。首を傾げているあたり、英語圏の人ではないのかもしれない。青年は、こちらをじっと眺めているだけだった。
どうしようか…
「グーテンターク」
これも違ったようだ。青年の顔には、くっきりとはてなが見えた。
「にーはお!うぉーしーりーばんれん!」
これは、中国語で「こんにちは、私は日本人です」という意味だ。もうこうなったらヤケクソで、知っている言語の全てを試してやろうと思った。
「ボンジュール、いや、ボンジュールノ!」
青年は、クスッと笑う。
青年は、
「日本語話せる、てか日本語しか話せないよ」
と言うと、力尽きて、ズルリと、ボートに倒れ込んでしまった。私は慌てて、青年を観察する。ゆっくりと呼吸をしている音が聞こえて、ひとまず安心した。気を失っている青年のことが気がかりだったが、流石にもう、ボートを押して家に帰る体力は私にはない。家に帰って、父に助けを求めることにした。父が家まで青年を運ぶと、
「ちさとが男拾ってきた」
と、母に告げた。
母は驚愕し、何かの冗談かと思ったらしいが、その後青年を目にしたことで、父のこの言葉を信じてしまったらしい。私はすごく恥ずかしくなった。
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