青年の正体

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青年の正体

青年をベッドに寝かせる。体が酷く冷えていたから、ちょうど温かいお茶を用意している時に、目が覚めたようだ。何故か祖父の浴衣に着替えていたその青年は、外国人観光客にしか見えなかった。 青年が口を開く。 「助けていただき、ありがとうございます。僕は、ノア。ノア・アンダーソン…」 一つ一つ、ノアはこれまであったことを話し、私たちはその身の上を知った。 ノアの両親は、共にヨーロッパ系だったらしい。ただ、ノアの幼い頃に両親が離婚して、大使館職員の母に育てられたから、生まれも育ちも日本なのだとか。 母は、この雨に伴う外国人の対応に追われ、息子であるノアを、知り合いのおじいさんに預けた。 しかし、その知り合いのおじいさんは、優しい人で、都会ではまともに食事も手に入らなくなると、ノアにばかり食事を与え、ある日倒れてしまったのだ。 このままではいけないと思い、ノアは書き置きを残して密かに家を出ることを決意。 家出をしたのだ。 そして、なんとかスーパーのスナックなんかで食い繋いで、東京から三重の田舎にまで流れてきたけれど、日本の大部分が水没した今、1人で生きてはいけず困っているのだと。 ノアのその苦労を聞いて、私は驚いた。私がのほほんと過ごしているうちに、ノアは想像もできないような、過酷な世界を生きていたのかと思うと、胸が苦しくなった。 そして、世界ではとんでもないことが起きていたのだと、実感したのだった。
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