17人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
不審者
2027年、3月上旬のことだ。ある日、酷くやつれた高身長の男性が家のイカダに侵入しようとしていた。ウエットスーツかTシャツがスタンダードとなったこの世界で、ビシッとスーツを着ているのが印象的だった。しかし、それよりも、顔の堀が深く、明るい髪色の男性は、すぐにノアの関係者だと分かった。
ノアは気がつくと、すぐさま家の中へ隠れた。私も、ノアのそばで様子を伺うことにした。
その男は英語で、
「大使館職員の息子を引き渡せ。」
と言ってきた。
「引き渡さなければ、家宅捜査に入る。領事裁判権が自分にはある。」
と。久々にリスニングをして、自分はつい3年前まで受験勉強をしていたんだなあと、懐かしさを感じていた時だった。
祖父が英語で、何やら難しいことを言っている。
もう高校生程度の英語力ではついていけなかった。ノアも英語はほとんどわからないらしい。
私たちは台所に隠れながら、祖父の様子を伺っていた。
祖父はかつて、ハワイで弁護士をしていた。何やら法律の話をしているらしい。交渉が決裂し、男は家宅捜査に押し入る。
玄関に押し入ったその時、ことの顛末を何も知らない祖母が、男を不審者と思い、傘立てに立っていた竹刀で胴を打ち、成敗したではないか。祖母は知らない外人さんが、盗みに入ったと思ったらしい。さすが実家が剣道の家元なだけあって、祖母の太刀筋は見事なものであった。
祖父の、
「Oh,dear !」(なんとまあ!)
というのが聞こえてきた。
最初のコメントを投稿しよう!