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胡蝶蘭の花
ノアは、野菜栽培用のビニールハウスの前まで、私を連れてきた。
夜は冷え込むからと、ノアが着ていたレインコートを私の肩にかける。
ノアは随分寒そうにしていたが、かっこいいノアの気持ちを無下にはできなかった。
ビニールハウスは月明かりを反射して、キラキラと輝いて見える。
少し濡れたノアの髪が黄金に輝く。
ノアは片膝をつき、おなじみの体勢になった。
来る!!
思えば、もう3年も一緒にいた。ノアも私も、お互いが大好きだ。
だから…
「Yes!」
私は笑顔で答えたが、
ノアはただ…
靴紐を結んでいた。
それだけだった。
期待して損した。ノアは何が何だか分かっていないみたいだ。随分とふてくされた私を、ノアは不思議そうに見つめるばかり。
思えば、私はまだ21で、ノアも22歳。結婚に振り切るにはまだまだ若い。
そして、ノアが私の顔を覗き込むだけで、目も合わせられずドキドキする私は、もうかなり、ノアの虜になっていると自覚した。
ノアは、ハウスの中で密かに育てていた胡蝶蘭を見せてくれた。
なんでも、ノアは植物を育てるのが趣味だったらしい。
どこかのお店からか流れてきたのを、頑張って育てているのだそうだ。
茎と葉しかない地味な光景を見せられて、正直反応に困ったが、ノアがこんなに派手な見た目をしているのに、随分渋い花を愛でているのがまた、愛らしいと思えた。
「まだ、待っててね。」
?
花が咲くのをだろうか。
よく分からないが、本当に、まだ蕾も何もない、小さな胡蝶蘭だった。
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