R e :胡蝶蘭の花

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R e :胡蝶蘭の花

ようやくこの生活にも慣れてきた。 ジャイアントケルプのような海藻がそこらじゅうに生い茂る。 イカダ用のロープは海藻の茎から作り出し、葉はスープやサラダに。 大量の流木は集落の中央にまとめることになり、新しい水耕栽培用のイカダや、子供の遊具用のイカダが作られていく。子供達は、ノアの作った水上アスレチックに大喜びだ。 このころになると、長野新政府は耐水性のプラスチックの貨幣を発行。 政府による臨時為替場や、水着、家具の行商ボートが行き交うようになった。 祖父は自分の家の大根などを使ったおでんの屋台ボートで一財築き上げていた。合鴨が肉類のメジャーになり、父は合鴨を育て、その卵を祖父がおでんにしているのだ。 私とノアは、集落の子供達を集めて、水上小学校・中学校を形成。知識はあるに越したことはないからだ。そのことがニュースでも取り上げられ、市長より直々に、私は小学校の校長に、ノアは中学校の校長に任命された。 学校からの帰り道、ノアは寄り道をしようと、私を誘う。 今日は、ノアと私が出会ってから、ちょうど5年の記念日だった。もっとも、ノアはそんなことを気にも留めていないだろうが。 農業用ビニールハウスに入る。各家の区画が決まっていて、私の家の区画に歩くまでに、家庭菜園を楽しむ人々と挨拶を交わした。 「これ、覚えてる?」 ノアが、胡蝶蘭の花を指差す。そこには、立派に咲き誇るピンク色の胡蝶蘭の花があった。 「胡蝶蘭の花言葉って知ってる?」 「いや、知らないかな。」 ノアは片膝をつき、胡蝶蘭の鉢を持ち上げた。 「あなたを愛しています! 僕と、結婚してください!!」 なりかけのかぼちゃをバックに、ノアは結婚を申し込んでくれた。 片膝をついたズボンは、水が浸水して変色している。 私は笑う。 「もちろん!!」 その場にいた、大勢の人が、私たちを祝福する。拍手が鳴り止まない中、号泣していた祖父を見つけてしまったのだった。 あの日の胡蝶蘭は、全てこのために用意してくれていたのだろうか? だとしたら…だとしたら、私は世界一の幸せ者に違いない。
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