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晴菜の不安
どうもおかしい。
7月下旬。まだ雨は止まなかった。地球温暖化のせいにしては、極地での氷河の量に変化はない。
むしろ、極地では降雪が大きな問題になっているらしい。
8月上旬。ツバルやバングラデシュ、オランダ…
海抜の低い国は、もう国土のほとんどが沈んでしまった。
国連は本拠地を、沈み続けるニューヨークから、エチオピア連邦民主共和国の首都、アディスアベバ(標高2355m)に移動させることを発表。
日本でも、海抜5m以下の地域では、行き場を失った水が溜まり、もう住めなくなってしまった。
ロシアやアラスカでは、ついに積雪量が限界を上回り、建物の崩落が相次いでいる。
教室から、1人、また1人とクラスメイトが減っていく。担任の先生の家も、浸水が始まったそうだ。
学校から、浸水に伴う欠席は、公欠扱いになると発表される。
そして、この異常気象のニュースが飛び交う毎日に、晴菜はすっかり怖くなってしまったようだ。
「これは、少し変どころじゃないね。」
晴菜からこの話をされて、私は少し身体が硬くなるのを覚えた。
晴菜は俯いている。
「これからどうなっちゃうんだろう。」
晴菜の声はか細く、今にも泣き出しそうだった。
「ちさとは怖くないの?」
潤んだ瞳がこちらに向いた時、私はただ答える。
「今は、受験勉強あるのみでしょ?」
あっけに取られた表情をした晴菜に、笑顔が戻る。
「さっすが、医学部志望は違うなぁ!よ!日本一!」
晴菜の声が、思いのほか響いた。クラスのみんなの視線が私に向いた瞬間、この上ない恥ずかしさが込み上げてきた。
「ちょっと、はるな、恥ずかしいって!」
私は小さな声で晴菜を止めたが、本人が一番恥ずかしいらしかった。
受験勉強あるのみか…。勉強を嫌々やらされている私から、こんな言葉が出る日が来ようとは。
それでも、心配性な晴菜の前で、私も本当はすごく不安だなんて、口が裂けても言えなかった。
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