待ち望んだ休暇

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待ち望んだ休暇

どこからともなく降り続けるこの雨は、一体何が原因なのか。この大量の水は、どこから来たのか。 政府は原因の追求を進めると宣言して久しいが、もっともらしい原因は、未だ見つかっていないのだった。 山間部に住んでいるから、流石に浸水の心配はないと、たかを括っていた私も、高校の一階が浸水し、臨時休校になったことで、ついに他人事ではないのだと、ことの重大さにようやく気がついた。 9月下旬。ついに電気の供給が止まる。 我が家では、ガレージについたソーラーパネルから得られる、ほんの少しの電気を、スマホや照明に充てるようになった。家が未だ薪でお風呂を焚いていたのが、ありがたい。 近所の人が、お風呂だけ我が家にもらいにくるようになった。せめて、この曇り空さえなければ、もっと電気が使えるのに。 スマホを開いても、雨の情報が飛び交い、不安になるばかり。 晴菜とは、高校で最終日に会ってからそれっきり、連絡が付かずにいた。 何かあったんじゃないか、どうか無事でいてほしいと思うが、晴菜のことを考えると、不安でたまらない。 休校し、あんなに待ち望んでいた暇を、持て余しているはずなのに、なかなか休まる心地がしなかった。 祖父は私に、気晴らしになればと、もう引退したはずだった、吹奏楽部で吹いていたトランペットを勧めてくれた。 祖父は、年季の入った、それでいて丁寧に磨き上げられたアルトサックスを手に取り、久しぶりに誰かとアンサンブルを奏でるのは、確かに楽しかった。 だけど、外に向かって、どんなに明るいメロディを、軽やかな旋律を奏でても、曇り空では音がこもって聴こえる。決して私の心が晴れることはなかった。 ある日には、祖母に誘われて、竹刀を振り下ろした。 畳の匂いが溢れる座敷の横の板間で、裸足で足を踏み入れるのが痛かった。そして、祖母の実家が剣道の家元であったことを、そこで初めて知った。 竹刀は、ヤンキーが振り回しているものというイメージしか無かったが、真剣に刀を構える祖母はかっこよかった。ピンと張った背中が頼もしく見えた。さすが、祖父を尻に敷いているだけある。 もう随分な歳なのに、背中がちっとも曲がらない祖母の、若さの秘訣はここにあるのかもしれないと思った。 その後、筋肉痛で2、3日うなだれている私を、祖母がフンと鼻で笑うのが、悔しかった。 もう二度と、剣術なんてかじるものか!! そんなある日、普段は6時過ぎに仕事から返ってくる両親が、昼の2時半に返って来た。 ついに、両親の職場も沈んだらしい。 いよいよこれからの生活が危ぶまれてきた今日、私の家族、本田家は、さらに危機感を募らせたのだった。
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