新政府、新生活

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新政府、新生活

10月上旬、日本の3分の1、都市のほとんどが沈み、世界各国では無政府状態が続く。日本では長野県に国の中枢機能を移すことが閣議決定され、もはや三大都市圏に、人の姿はなかった。 しかし、長野新政府の都市機能が東京に匹敵するはずもなく、職や家を失った人が後を経たない現状、私たちは自給自足生活を強いられていた。 そして10月末、海抜55mの千里の家にも、水が押し迫ってきた。 長野新政府は、家にあるペットボトルや木、竹で、イカダを作るよう推奨している。 本田家には、タケノコ用の竹林がある。祖父は、もはや沈んでしまうのならば、と、竹を全て伐採し、イカダにすることを決意した。そして私は、祖父と父と共に、イカダ作りの手伝いをすることにした。 若竹は水分を多く含んでいるからか、中が空洞の割に、とても重かった。 ほんの1、2時間で、私は疲れ切ってしまった。父も、日頃のデスクワークが祟ったのか、腰に限界を迎えていた。おまけに、雨の中で作業をするのは、思っていた以上に体力を削がれる。 擦れるカッパの音、竹の中を水が伝う音、そして雨音が、耳に焼き付く。雨水が髪を滴り、それが目に入るとすごく痛かった。 だけど、家に帰ると、お風呂を温めておいてくれる母、料理下手な母の代わりに、料亭並みの料理を作ってくれる祖母がいたから、不思議と続けられた。 祖母の指示のもと、母は家の家具や食器を選定し、なんとかイカダ暮らしの基盤を整えていた。 祖父は、綺麗に管理してきた竹林に、よほど思い入れがあるのか、日々泣き言を言っては、祖母に叱られていたが、私も、父も、きっと祖父も、なんだかんだでイカダ作りがなんだか楽しくなってきたのだった。
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