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ブルーな新居
イカダが完成した11月下旬には、もう本田家は水没してしまっていた。
かなり大きなイカダになり、平屋ではあるが、台所、玄関、リビング、祖父母の部屋、両親の部屋、私の部屋、シャワー、そして資材置き場など、かなり充実していた。
これを設計して作り上げた祖父の手腕には恐れ入る。
そうなると、沈まないものかと、浮かべるまではヒヤヒヤしていたが、無事に水に浮いた時、母と祖母からは歓声が湧き上がった。
本当に嬉しかった。家族全員でハイタッチを交わすほどに。
あの大量のブルーシートは、イカダの上で屋根となり、壁は、かつて、我が家の小屋の一部であった床材や、屋根や、壁がそのまま使われた。
湿気対策のために、屋根も壁も、そして床も、ブルーシートで覆われた新しい家は、モンゴルの遊牧民族が建てるゲルのようであったが、家の中は、普通の木造家屋となんら変わらなかったので、快適に暮らせそうな気がした。
窓ひとつなく、かなり暗いのがたまにキズだが。
各地の小学校で配給された水力発電機は、一見流れなど感じない水の上で、役に立つのか、疑問だった。
実際、初めは何も充電されず、途方に暮れた。
しかし、もう沈んでしまった母屋の柱に、イカダを結びつけて固定すると、少しずつ充電が開始されて安心した。
LED電球なら、なんとか夜9時くらいまでつけ続けられるようになり、ようやく暗闇生活から抜け出せてよかった。
もう11月だというのに、平均気温は18℃と、比較的温暖な日が続く。雨が降っていることを加味すれば、この気温もまた、おかしかった。
祖父母は、
「我が家の田畑が水没するのを見ていられない」
と泣き喚いていたが、私は、今のような、勉強に追われることのないのんびりとした毎日も、悪くないと思い始めていた。
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