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流れてきた天使
イカダ生活を始めて少し経ったある日、祖父に命じられて、1人で雪ゾリを片手に、流木集めをしていた時だった。
見慣れない木製の手漕ぎボートがこちらに向かって流れてきた。
少しずつ近づくそのボートに、人の姿はない。
ゆっくりとこちらに近づいてくるボートからは、何やら不気味さを感じた。
今までこそ、何も起きなかったが、今のこの世界で、法律が適応されるとは思えない。
最悪、略奪者に遭遇するかもしれないから、気をつけるよう両親から言われていた私は、その見慣れないボートがだんだん怖くなった。
しかし、それよりも、ボートには何が積まれているのか、ボートを持ち帰ったら、家族はどんな反応をしてくれるかという好奇心が、胸を高鳴らせていた。
ゆっくりと、平泳でボートに近づく。
ボートの真横までくると、スー、スー。と、息が聞こえてきた。
どうやら人が乗っている、しかも寝ているようだ。
私は、近くの岸辺までボートを押した。
かなり重くて、明日は筋肉痛が襲ってくる予感がしたが、一心不乱に足をばたつかせて、なんとか水没した、かつて小学校の屋上だった所にきた。
そして、そっとボートの中を覗き込む。
そこには、小さなリュックサックと、金色の髪の美しい青年が倒れていた。
その日は小雨で、たまに太陽の光が顔を見せることがあったが、その青年にスポットライトが当たるように、光が一筋入ったとき、まるで絵画の中にいるような心地だった。
金色の髪は光に透けると、明るい黄色になり、滴る雫も相まって、その青年の周りが輝いて、言葉にならない神々しさを放っていた。
「天使だ。」
私は思わず呟いていた。私の目には、確かにそこに天使の羽が見えたのだ。
着ていたTシャツが雨に濡れて、ピッタリと体にまとわりついて、体のラインが見えた。
ずいぶん細身な体は、意外と筋肉質で、腹筋は縦に一筋の線が、くっきりと刻み込まれていた。
あまりの美しさに、なかなか目が離せない。
私は、水の滴るいい男というのを、初めて目の当たりにした気がした。
しかし、彼の青白い肌には鳥肌が立っていて、顔色も悪く、ただ寝ているだけのようには見えなかった。
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