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コンビニを出ると、外灯の光が目立ち始め、辺りが薄暗くなっている事に気付かされる。遠くの空を見れば、もう太陽は沈んだのだろう。黄昏色に、闇色へと続く藍色が混ざり、美しいグラデーションを作り出していた。
温かさを含んだ空気はもう感じられず。時折吹く風が、肌の表面から容赦なく熱を奪っていく。
……早く、帰らないと。
小さな買い物袋を握り締め、急いでアパートに戻る。
「……」
喜んでくれたら、いいな……
竜一の似合わない笑顔を想像し、小さな期待に胸が膨らむ。
アパート前まで辿り着くと、既に来客用の駐車場には竜一の車が停まっていた。通りすがりに運転席を盗み見ると、そこに居たのはモル──じゃない。
「……」
どうしたんだろう。何か、あったのかな……
何となく不安に感じつつアパートの二階部分に視線を移せば、外廊下を歩くスーツ姿の竜一が。
「──!」
慌てて地面を蹴り、アパートの外階段を駆け上ると、玄関前で立ち止まった竜一が此方に顔を向けた。
──パタン
玄関ドアが閉まるなり、逞しい腕に背後から抱き締められる。
ドクン、と大きく跳ねる心臓。
すっかり冷えてしまった肌に竜一の熱が伝わり、次第に温まっていく。
「……」
あったかい……
竜一の匂いや息遣いも感じているうちに、トクトクと速くなっていく心音。背中から感じる力強い竜一の鼓動が、僕のそれと心地良く重なる。
竜一の吐息。
心地良い布擦れの音。
抱き締める竜一の腕が解け、僕の二の腕を掴み、そっと撫でるように下りていく大きな手のひら。行き着いた先でその手首を持ち上げられれば、カサッと耳障りな音が小さく響く。
「………何だ、これは」
そう言って、僕が持っていたビニール袋の口を開くと、竜一が肩越しからその中身を確認する。
「ビールか?……悪いが、今は飲みたくねぇ」
そう吐き捨てると、僕からサッと奪い取る。
「……あ……」
もしかして……怒ってる?
こんなものの為に買い出しに行って、留守にしてたから……
急に不安になり、振り返って竜一の顔色を覗えば、ガラス玉のような冷たい眼が僕をじっと見据えていた。
「走って振り回したものなら、尚更な」
口の片端を持ち上げ、不安に駆られる僕の後頭部に片手を回す。そして覗き込むようにして顔が近付き──重ねられる、唇。
「……ん、」
ねっとりとした舌が唇をこじ開け、歯列を割り開きながら強引に押し入る。
咥内をゆっくりと掻き回される咥内。絡められる熱い舌。息ができない程に深くなっていく。
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