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居場所
×××
お尻に違和感を感じる。
……よく解らないけど、もぞもぞと何かが這って……ナカで蠢いているような……
「………」
ぱちんと瞼を上げると、見慣れない天井が目に飛び込んだ。
「……あ、起きた?」
下肢の方から声がする。
ぼぅ…、とする頭を押さえ、両肘をついて上体を持ち上げようとした時だった。
「あ、そのままそのままっ!」
「……っ!」
「まだ動かないで」
視界に飛び込んできたのは、立てた膝の間に顔を寄せる──五十嵐の姿。
……なん、で……こいつが……
「悪い。あともう少しで塗り終わるから……」
「………やめ、…」
膝を閉じて上へと逃げれば、両足首を摑まれて引っ張り下ろされる。
「動くなって言っただろ。
……このままだと、感染症起こすぞ」
「……」
何で。よりによって……こいつに……
何の躊躇も無く、僕の後孔に第一関節まで指を入れてくる。丁寧に、切れた所や腫れてる所に軟膏を塗り付けられるのは、やっぱり気持ち悪い。
五十嵐を睨みつける。
羞恥を晒されるこっちの身にもなれ。
「……こんな事するの、嫌じゃない……?」
「まぁ、うん。好ましくはない。人のケツの穴に……なんて。
けど……菊地さんの命令なんだから、仕方ないだろ」
やれやれと言わんばかりの大きな溜め息をつかれる。
……溜め息つきたいのはこっちの方だ。
手近にあったティッシュで軽く指を拭き取り、軟膏の蓋を閉める。
一連の作業を終えた五十嵐が、僕に視線を向け取り繕った笑顔見せた。
「……腹、減ったろ。さっき食いもん適当に買ってきたからさ。……好きなの食えよ」
そう言いながらベッドから降り、行きがけに丸めたティッシュをゴミ箱に捨てる。そしてサイドテーブルの前に立つと、置かれたコンビニ袋から弁当やらパン類やらを次々と取り出した。
「………いい。要らない」
「食えって」
「……」
「じゃ、これなら食えるか?」
五十嵐が取り出して見せたのは、お湯を注ぐだけのカップスープ。
「お前、随分痩せたんだな。
細いっていうより、ガリガリだぜ。……見てて痛々しい」
「……」
「菊地さんにも、絶対なんか食わせろって言われてる。
……じゃなきゃ、俺がぶっ飛ばされるんだから、絶対食えよ」
……なにそれ。
僕の心配じゃなくて、自分の心配……?
五十嵐は空気も読まず、透明フィルムを剥がして蓋を開け、電気ポットの湯を注ぐ。
ふわっと漂う、インスタントスープの匂い。
美味しそう…というより、化学調味料独特の、胃に悪そうな臭い。
「……なぁ、工藤。
お前、好きでもない奴に抱かれるの……嫌だって言ってたよな」
湯を注いだカップを持ったまま、五十嵐がぽつりと呟いた。
「なのに、何で自分から誘うような事したり、そういうの簡単に受け入れちゃったりするんだよ……」
「……」
「……前は、そんなんじゃ無かっただろ?
もっと、こう……なんつーか………、ぅあちっ、!」
カップの熱にやられ、五十嵐が慌てた様子でテーブルにそっと置く。
その様子に僕が無反応を示せば、五十嵐が少し気恥ずかしそうな顔を此方に見せた。
言いかけようとした口が一度噤まれ、でも直ぐに開かれる。
「………いつから、そうなっちまったんだよ、工藤」
「……」
「俺、助けたいんだ。……お前を」
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