忍び寄る影

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振り返れば、そこには背の高い痩せ型の男性が立っていた。 大学生……二十歳くらいだろうか。毛先が緩くカールした、柔らかそうな細い茶髪。面長。瞳は大きく、やや垂れ目。 全体的に優しげな雰囲気は、何処となく化学教師──浅間に似ていた。 「……あ、俺同じアパートの……隣の部屋に住んでる、吉岡っていいます」 「……」 話しながら微笑む吉岡。柔らかな雰囲気を保ちつつ、より優しげになり、下ろした長い睫毛がよく目立つ。 「米運ぶの、大変ですよね。わかります」 売り場に積まれた米袋を見ながら、親しげに僕のパーソナルスペースに侵入してくる。 その人懐っこさというか、図々しさというか……吉岡のその態度に、一気に嫌な気分に変わる。 「……あ、良かったら俺運びますよ! こう見えて、力はあるんで!」 「……」 いくら隣に住んでいるとはいえ、よく知りもしない相手にここまでするものなんだろうか。 「あー、遠慮しなくていいんで!」 半ば強引に圧され、僕は嫌悪を露わにして吉岡を見上げる。 ……一体、何のつもりですか? 口には出さずに睨んだ後、直ぐに立ち去る。 会計を済ませ買い物袋をぶら下げ外に出ると、あんなに青空が広がっていた空が、灰色の厚い雲で覆われていた。 ……急いで帰らなくちゃ。 洗濯物を干したままだったのを思い出し、地面を蹴って走る。 ザァァ───! 案の定、バケツをひっくり返したような激しい雨に襲われ、濡れた白Tシャツが肌に張り付いて透けてしまう。 ジーンズのウエストが緩かった事もあり、下着までぐっしょり濡れて気持ち悪い。 ……最悪だ…… 廊下に濡れた買い物袋を置き、床に小さな水溜まりを幾つも残してベランダへと向かう。 すっかり雨に打たれた洗濯物を急いで取り込むと、深い溜め息をひとつつく。 洗い直しのそれらを纏め、洗面所へ向かい洗濯機の中へと放り込む。ついでに着ている服も全て脱いで、その中に入れた。 浴室のドアを開け中に入る。 濡れたせいで肌寒く、熱いシャワーを頭から浴びる。 ……ああ、もう…… 全てを台無しにされた気分…… 目を瞑り、顎を少し上げる。 濡れて貼り付く髪。肌を伝う水流に擽られ、ゾクリと身体が震える。 「……」 昨日の記憶を追い掛け、竜一に付けられた首筋の痕をそっと指で触れる。
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