忍び寄る影

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逢いたい……竜一…… 二日連続で来てくれたから、今日も来てくれるんじゃないか……なんて、期待してしまってる自分がいる。 ……そんな事、ある訳ないのに。 蛇口に手を伸ばし、キュッと閉める。濡れた髪を適当に絞ると、浴室のドアを開けた。 ──ピンポーン 突然のチャイム。 大きく跳ね上がる心臓。 もしかして……竜一? バスタオルに身を包み、逸る気持ちを抑えながら、淡い期待に胸が膨らんでいく。 「……はい」 インターフォンの受話器を取って画面を見れば、明らかに業者と思わしき格好をした人物が画面に映る。 白黒の荒い画面で解りづらいけど、作業着姿にツバ付きのキャップを目深に被り、首からは社員証らしきものをぶら下げている。 『△□ガスです』 ……あれ、今日だったっけ…… 紙が入ったのは昨日。 まさか、今日だったなんて……全くの想定外。 冷蔵庫にいって確かめたい衝動にかられていると、作業員がキャップのツバを摘まむ。 《点検に来ました》 それを外す訳でも無く、紐でぶら下がる社員証を掴んでみカメラに近付ける。 古いタイプのインターフォンのせいか、酷い画質のせいで顔写真が貼られている程度にしか判別できない。 「……お待ちください」 受話器を戻すと、急いで身支度をする。 「………失礼します」 顔を下げたまま、作業員が玄関を上がる。 衿口が広くあいた、竜一用の大きいサイズの白Tシャツ。その裾を引っ張り、ショートパンツから伸びる足を少しでも隠そうとするけれど。それには長さがまだ足りない。 先程ジーンズが濡れてしまったせいで、手持ちのボトムがこれしかない事を後悔する。 「……ガス元を見せて貰っていいですか?」 「はい」 先に台所に入り、作業員を案内する。 取り付けタイプのガス台を動かし、作業員がガス元を確認する。ガスの漏れが無いか、管に異常がないかを見るためなんだろう。 「……」 玄関のドアを開ける前、濡れてしまった廊下は拭いたものの、まだリビングは拭き終わってない。 作業員がガス台で作業しているのを確認し、リビングへと向かう。 そして両膝と片手をつき、箱から取り出したティッシュで濡れた床を拭いた。 「……」 ひた、ひた……
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