忍び寄る影

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裾が床に届きそうな程垂れ下がり、素肌がスースーする。 雨はまだ降っている様で、窓の外からサァーという静かな雨音が聞こえる。と共に、ひたひたという水の滴る音…… タオルで軽く拭いただけの湿った髪の毛先から、ポタポタッ、と雫が床に垂れる。 それを新しいティッシュで拭き取った──その時だった。 「──!!」 不意に何かを感じ、身を捩って振り返る。 「………随分と、無防備なんだねぇ」 直ぐそこに立つ作業員が、静かに僕を見下ろす。 まだ昼間だというのに薄暗い部屋。キャップの影になって見えない顔。 そのツバの下から覗いた口が、ニヤリと歪む。 ……気付くのが、遅かった…… 突然の恐怖に、背筋が凍る──そんな余裕もなく男の手が伸び、逃げようと動いた僕の腰を掴む。 それでも──手足を必死で動かし、前へ逃れようする。 ズズズズ…… 凄い力で床を引き摺られ、手荒く仰向けにひっくり返される。 「………っ、!」 上から見下ろされる顔──ギラギラと異様に眼が輝き、緩んだ口から現れた舌が、別の生き物の様に己の唇を舐める。 ……知らない……顔…… 腕の付け根辺りを上から押さえつけられ、男が僕の腰上に跨ぐ。 足をバタつかせて身体を浮かそうとしても、びくともしない。唯一動かせる手で男の腕を掴むも、何の抵抗にもならない。 男は片手だけで軽々と僕の両手首を纏め、僕の頭上の床に押し付ける。そして、ニタニタと厭らしく笑いながら、僕の乱れた服の裾を摘まんでゆっくりと捲る。 「……」 露わになる胸元。 それを、男が舐めるように黒眼を上下に動かす。 「……君の喘ぐ声、聞いたよ。……ハァハァ……凄く厭らしくて、聴いてて堪らなかった……ハァハァハァ……」 キャップのツバを摘まみ、耳の方へとずらす。 「ここを引っ越す時に、……ハァハァ……盗聴器を仕掛けて、女が入るのを期待していたんだ……ハア……」 剥き出されたその柔肌に、乱れた吐息が掛かる程、男の顔が迫る。 「……けど、あんな声を聴かされたら……はぁ、はぁ、……」 鎖骨の下──脇に近い場所に男が顔を埋める。 「……」 ……反応したら、きっと喜ぶ。 そう解っていても、この身体を……竜一に捧げた僕の全てを、このまま奪われる訳にはいかない。
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