忍び寄る影

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「……!」 この空間では似つかわしくない、異様な音。 即座に反応した男が、屈めていた背筋を伸ばす。 ……コツ、コツ、コツ、コツ、 近付いてくる靴音。 やはり、この空間では似つかわしくない。 それに警戒するかのように、だけど僕から退くつもりはないのか──部屋の入口へと顔を向け、じっと様子を覗うように見据えていた。 ……コツ、…… 靴音が、止まる。 と、僕の膝に触れていた男の指が、途端に小刻みに震えだす。 胸の前に構え直し、握り締めていたカッターも、大袈裟にブルブルと震えている。 「………ん? 何だテメェらは……」 低くドスの利いた声。 高級スーツ。オールバック。見るからに、如何にも……といった雰囲気を醸し出したガタイの良い男が、革靴を履いたまま部屋の中へと再び足を踏み入れる。 「……って。ちぃっとばかし、穏やかじゃあねーみてぇだな」 コツ、コツ、コツ…… 強い威圧感。だけど、怒鳴り散らす訳でもなく顎を少し突き出し、興味など無さそうな冷めた眼で作業員と僕の様子を俯瞰している。 その背後から、スッと現れる男性──黒スーツ。無機質に見える白金の長い髪。恐らく、玄関のドアチェーンを切ったであろう大きなボルトクリッパーを肩に担いでいた。 「……さくらっ!?」 その男が大きく目を見開き、僕の名を叫ぶ。 まだ息すら真面に出来ない僕は、それに反応し、ゆっくりと瞬きをしながら黒眼だけを小さく動かす。 ……え…… なん、で…… 幻影なんかじゃない…… 夢とは全然違う…… 「……、っ!」 驚いた男の顔が、一瞬で引き締まる。 その刹那──見開かれていた瞳は細く、何処までも吊り上がり、何の感情も持たない深い闇へと濁る。 ───ガッッ!! 足早に近付き、担いでいたボルトクリッパーを片手に、作業員の額をフルスイング。 サァァッ、 辺りに飛び散る血──男の頭が、後方へとふっ飛ばされる。 「……」 その、躊躇のない攻撃は…… カッとなったら、何をしでかすかわからない…… 「……おーおー。随分と派手にやったなァ、ハイジ」 ハイジ…… ……生きて、た……
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