忍び寄る影

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まさか、こんな形で再会するなんて…… 「……ハイ、ジ……」 やっとの事で声を発し、口角を僅かに持ち上げて見せる。 僕なりに、笑ったつもりだった。 だけど。そんな僕を、ハイジが冷たく見下ろす。 「……」 ……確かに、ハイジだ。 だけど……以前の、僕が知ってるハイジ……じゃない…… ……ドロ…ッ…、 作業員の額を、抉ったのだろう。 血塗れたボルトクリッパーの刃先から、粘着性のある赤黒い血が、糸を引くように滴り落ちる。 「……っ、」 ドロッとした、生暖かい感触…… ゆっくりと、両腕を持ち上げる。 あんなに動かなかったのに。痺れは残るものの、いとも簡単に動けるようになるなんて。 ……赤い、……血…… 顔を拭った後、その手を浮かせてみる。 五本の指の隙間から見えた先には、冷ややかに見下ろすハイジの眼── ……なん、で…… 鮮明に蘇る、目の前でアゲハの首が掻っ切られる光景。 その血飛沫に、思わず目を瞑る。 「……」 ……ああ、もう……情けない。 何でこんな、……震え……ちゃうんだ…… 手が宙に浮いたまま……もう、動けない。 「知り合いか?」 高級スーツに身を包んだ男が、ハイジにそう言い放つ。 それに反応したハイジが、男の方へと振り返りながら答える。 「……いえ、全然知らねぇ奴でした」 「へぇ……」 何かを見透かすかの様に、顎の下に手をやりながらハイジの眼を覗き込む。 「……止めて下さい、(リュウ)さん。 昔、惚れてたオンナに……ちょっと似てただけっすから」 そう答えたハイジが、血を流してぶっ倒れた作業員を横目で見る。 高級スーツの男──龍が、僕を興味深げにじっと見下ろす。 「……山本の女、な訳ねぇか。 にしても、どっかで見た事ある面してんだよなぁ」 「……」 バタバタバタ…… 二人が入口のドアへと顔を向ければ、慌てた様子で部屋に入ってきたのは、黒地に白龍のスカジャン姿の男。 「スイマセン、龍さんっ、」 腰を低くさせながら龍に駆け寄り、そっと耳打ちする。踵を返し、足早に部屋を出ていこうとする龍が、その入口前で足を止める。 「……あぁ、ハイジ。そういやぁお前、男でも女でもイケるんだったよなぁ」 そう言って振り返った龍は、口を歪ませながら鋭い視線をハイジに向ける。 「ソイツ、……お前の女にしちまえ」 龍の台詞に、一瞬見開かれるハイジの眼。しかし、直ぐに冷酷さを取り戻す。 「……」 床に滴る血。それが、次第に固まっていく。 震え脅えるだけの僕に、ハイジが鋭い視線を落とす。
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