忍び寄る影

3/24
前へ
/68ページ
次へ
ガサッ、 部屋の真ん中にあるローテーブルに、乱雑に置かれる買い物袋。その向こう側──壁際のベッドへと強引に引っ張られ、仰向けに押し倒される。 「……ま、待って」 「うるせぇ」 口答えしようとする僕の唇を、竜一の唇が塞ぐ。 掴んだ手首をベッドに沈め、もう一方の手が服の下に滑り込み、僕の胸を弄る。 ……まだシャワー、してないのに…… 久しぶりの逢瀬に、こうなる事ぐらい簡単に想像できたのに。 空回りばかりで。竜一の為に何も出来てなくて……本当、情けない。 * 「……さくら」 ベッドに身を沈めたままの僕に、竜一が声を掛ける。 黒眼だけを動かし、声のあった方へと視線を向ければ、仄暗い部屋の中で裸体を晒したまま静かに煙草を吸っていた。 「……」 性急すぎる身体の繋がりは、時に僕の心を置いてけぼりにする。 竜一も、何となく気付いているんだろう。ぼんやりとただ天井を見つめるだけの僕から、何かを感じ取ったみたいだ。 「……ビール貰うぞ」 煙草を口に咥え、テーブル置かれた白いビニール袋に手を伸ばす。 「……」 刻々と支配していく暗闇。 その中で、煙草の小さな赤い光が数秒間、一際明るく灯る。まるで線香花火のよう。儚くも美しい一瞬の輝きが、僕の目に焼き付く。 光が弱まると同時に、竜一の口から吐き出される煙。 プルタブを上げる音。 煙草を指で挟んだまま、反対の手で僕が買ってきた缶を持ち上げ、クイッと煽る。 「………ッ、アルコールゼロじゃねぇか」 直ぐに口を離し、そう吐き捨てる。 「……ごめん。未成年だから、アルコール入ってるの、買えなくて……」 「灰皿は何処だ?」 飲みかけのそれを雑にテーブルに置くと、竜一が再び口を開く。 「……ごめんなさい……今、持って──」 「いや、いい」 その台詞にハッとし、上体を起こそうとすれば、竜一がそれを制す。 「別に責めてる訳じゃねぇ。何処にあるかだけ、言ってくれりゃあいい」 「……」 さっきまで、強引で乱暴だったのに。ぶっきらぼうながら、さりげない優しさを覗かせるなんて……ズルい…… 「台所の、流しの近く」 そう告げると、腰を上げた竜一が刺青のない逞しい背中を僕に向け、部屋から出ていく。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加