恩義

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「……ごめん、ハイジ」 「謝んなって」 気遣いながらそう言ってくれたハイジに、胸を抑えながら頭を小さく横に振る。 「……ごめん……、ゴホゴホッ」 「もう喋ンな」 一度咳き込むと、中々止まってはくれなくて。背中を擦られる度に、ゾクゾクと寒気が襲う。 「………待っててくれてたんだな」 ボソリ、と呟くハイジ。 その声色は穏やかで、何処か嬉しさを孕んでいた。 見れば口元を緩ませ、僕を見下ろす瞳が潤んで澄んだ優しい色をしていた。 「……」 ……誤解……させた…… 続きを言う前に、ハイジの中で僕という人間が出来上がってしまった。 ……違う。 そう言ったら、また豹変してしまうだろう…… そしたら今度は、確実に殺されるかもしれない。 「………うん」 待っていたのは、本当…… レンタルショップ店員のハルオの所に居候しながら、いつかハイジが迎えに来てくれるって…… 頼りない希望だったけど、待ってた。 ……でも。それは同時に。 アゲハへの憎しみも、竜一への想いも、一緒に抱えていたけど…… 「さくら」 咳が止まった僕の下瞼を、ハイジが折り畳んだ人差し指で拭う。そして僕の横髪を手櫛で梳き、僕の顔を優しく見下ろす。 、今度は優しく触れて指を絡ませる。 「オレは、暴力団との繋がりはあるけど……暴力団組員じゃねーから」 「……」 ……え…… 驚いた。 あの部屋に、龍と一緒に入ってきたハイジは……何処からどう見てもソッチの世界の人間に見えた。 それに── 人を殺す事に何の躊躇もない、あの鋭く氷のように冷たい眼。 「……ただ、龍さん──って。リュウと同じ名前でややこしいな。 オレと一緒にいたあの人、龍成さんっつーんだけど」 「………」 「オレ、その人に……返しきれねぇ恩義があっから」 僕の横髪を丁寧に梳く指先は、もう震えてなどいない。 真っ直ぐハイジを見つめ、その腕にそっと指を添える。 「……恩義?」 小さく呟けば、直ぐにゴホゴホと咳き込んでしまう。 もう、咳のし過ぎで喉も肺も痛い…… 「無理して喋んなって!」 直ぐにハイジが背中を擦ってくれる。 恩義──微かに感じる違和感。 確か、ハイジと初めて食事デートをした時も、同じような事を言ってた気がする…… 「……オレが施設出身なの、知ってンだろ?」 擦る手を止めず、ハイジがぽつりと話し出す。
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