恩義

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……ゴホ、ゴホッ ケットを引き上げ、背中を丸める。 肩や背中が空気に曝され、ゾクッと寒気がして身体が震える。 「……少し、冷めちまったけど……」 ハイジがカップ雑炊を僕に差し出す。 「一口でも食って、ちゃんと薬飲めよ」 「……」 ケットから両手を出し、それを受け取る。 「……うん」 そう答えながら、ハイジをチラリと見上げる。 「食べるから、続き……」 「わぁったって!」 少し乱暴に答えながらも、大きめの枕を二つ重ねてベッド柵に立て掛けてくれる。 「……ほら、ケツ痛ぇだろ?」 「………!」 ハイジの……ばか…… 直ぐに目を逸らし、熱くなった頬を膨らませて見せる。 ……言い方はともかく。 こういうさり気ない気遣いをされると、心が擽ったくなってしまう…… 足を閉じたまま膝を折り曲げ、踵をお尻の方へと引き寄せる。そうしながら身体をそっと後ろに倒し、枕に背を預ける。 「……」 湯気を失ったカップ雑炊。 プラスチックスプーンでひと混ぜし、少しだけ掬って口に運ぶ。 「……話の続き、すンぞ」 それを見届けたハイジが、近くにあったイスを引き寄せて座った。 「二度ぐれぇかな? オレを引き取りてぇっつー里親が現れてよ。 ……けど。時間かけて築き上げてきた関係を、一瞬でぶっ壊すみてーに……どっちも最終決断で、向こうから断ってきたんだよ」 その理由は、解らなかった。 そのうちハイジは、里親の話が来る度に、リンチの口実にしかならないという理由で最初から会うのを拒む様になっていた。 服で隠れた所に痣を見つけた職員が、ハイジの味方になってくれたのは──それから一年後。 危機を感じた職員は、ハイジの為に尽力を注いでくれたが、その対処はいずれも付け焼き刃にすぎず……結果は伴わなかった。 そんな折、職員の人手不足により民間施設に委託するという話が浮上した。 「少人数でアットホーム、ってのがウリの所でさ。その職員がオレを推してくれて、移る事になったんだけどな。 ……そこがまた、酷ぇ地獄絵図のような場所でよ……」
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