恩義

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尖った眼。 それが少しだけ揺れた後、僕からカップ雑炊を静かに奪い、代わりにペットボトルを押し付ける。そしてサイドテーブルに置かれた市販薬を開け、銀色のフィルムからカプセルをひとつ取り出す。 「……ほら」 「……」 片手を広げて受け止める。 コロンと転がるそれを、手を窄めて掌の中心に寄せた。 「……オレが小四の頃か。 親からの虐待が原因で、施設に引き取られた女が入所したんだよ」 自己紹介の際、長い髪で俯いた顔を隠し、隣に立つ職員の袖口を怯えるようにずっと握り締めていた。 中学生位だろうか。その髪の隙間から覗いた顔は、ハイジが今まで見た事が無いほど端整な顔立ちをしていた。 その子が施設に来てからというもの、殺伐とした施設内の空気は一変。 初めて新しい服が支給され、食事も毎日弁当が与えられた。 風呂にも毎日入れ、職員からの暴力や独房に閉じ込められる等の仕打ちも無くなった。 その職員は、掌を返したかのように入所者全員に優しく接するようになった。しかしその笑顔が、返ってハイジの不安を駆り立てる事に── 「解放された、って。単純に喜んでた奴もいたけどな……」 その女子は何の疑いもなく、この職員にだけ心を許し、会話を交わし笑顔を向ける──その姿を端から見ていたハイジは、無性に腹が立った。 そんなある日の夜。 皆が寝静まった頃に目が覚めたハイジは、一人静かに廊下に出た。 その時。職員に手を引かれ、長い髪を靡かせたあの女子が、職員の個室に入っていく姿を目撃。 ……ぃや…… 止め……、て……っ、 ドアの向こうから聞こえる、彼女の消え入りそうな声。 ドスンッ、と音がした後、急に静かになる。 不安になったハイジが、そっとドアに耳を当てると…… ……ぴちゃっ、クチュッ…… 微かに聞こえる、卑猥な水音。 思春期を迎えようとしていたハイジの脳裏に浮かんだのは、“キス”という二文字。 『──ッッ!』 瞬間──カッと頭に血が上る。 鍵の掛かっていたドアをぶち破り、何処から調達したのか解らない金属バットを手に突入。 しかし、そこでハイジが見たものは……… 服を乱され、抵抗する力を奪われた彼女の両足を押し開き、その中心に職員が顔を埋めている姿── 「……気付いた時には、そいつの頭をバットで何度もぶん殴ってて──」 「……」 ボルトクリッパーで、作業員の頭をフルスイングしたハイジ。 ……その時の光景と、重なる。
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