恩義

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きっと、あの時のハイジも……同じ眼の色をしていたんだろう。 「……」 カプセルを載せたまま、手のひらをきゅっ、と握る。そして視線を静かに下ろし、ぼんやりとケットに包まれた膝を見つめた。 「妬くなよ?」 「……ぇ」 ハイジの突然の言葉に驚き、顔を上げる。 「彼女はオレの、……初恋の相手だったんだ」 「……」 「……何だよその瞳は。少しは嫉妬しろよな」 真っ直ぐハイジを見つめていれば、直ぐに眼を逸らしてしまう。 その頬が、少しだけ赤い。 「………うん、わかった」 静かにそう答えると、ハイジが少しむくれた声を上げる。 「ったく、……全然してねェだろ!」 「…………」 「まぁ、いいや。………良くねぇけど」 気を失い、彼女の上に崩れる職員。 それを乱暴に足でどかし、ハイジは下敷きとなってしまった彼女に手を伸ばす。 ……カタカタカタカタ 焦点の合わない瞳。 彼女の唇、肩、指先、両足が、まるで微量の電気を流されたかのように、小刻みに震えている。 「最初は、凌辱されたからだと思ってた。……でも、彼女は明らかに、オレに怯えててよ」 怒り、憎しみ、悲しみ。 其れ等の感情が入り乱れ、差し出した手を静かに下ろすと──金属バッドを握るハイジの手に力が籠もる。 ………なん、で……だよ…… なんで助けたオレを、そんな瞳で見ンだよ………!! 『──う″ォおオ″ォぉォ″オッッ、!!』 室内に響き渡る、悲痛な雄叫び。 バッドの先を、大きく天に振り上げる。 全ての矛先は、助けようとしていた──彼女の顔面へ。 『………辞めとけ』 パシッ 背後から現れた手が、金属バッドを掴んで引き止める。 「──それが、龍成さんだったんだよ」 「……」 龍成は、彼女と同じ時期に入所。 中一にして暴走族。 万引き、カツアゲ、暴力、暴走行為、バイクの無免許運転等……補導や逮捕の数々を繰り返し、(ハク)をつけていた。 手に負えなくなった龍成の両親が、更生の為に施設へ放流、というものだった。 施設には殆ど帰ってこない。 しかし、あの日あの時間に偶々戻ったのは──何か大事な用事があったからなのか。 それとも、単なる気まぐれだったのか…… 「『俺が何とかしてやるから、お前はさっさと逃げろ』って、言われてさ……」 動揺したハイジから、龍成が冷静に金属バッドを取り上げる。 そのグリップを素手で握り、まるでゴルフの素振りのように何度もスイングする。 ……ゴギャ、ドゴッ、 骨が砕ける様な、奇妙な音。 その鈍い音を背後で聞きながら、ハイジは振り返らず、暗闇へと続く廊下を走った。
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