恩義

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『 児童養護施設って所で育った。……けど、抜けた』 ──小四で施設を抜けてから、単身外の世界で、どうやって生きてきたんだろう。 住む所も無ければ、頼る所もない。そんな中、ハイジのチームを作ったんだから……きっと、想像以上の苦しみを味わってきたんだと思う。 施設の内か。それとも外か。──結局ハイジにとって、どちらが幸せだったのかな…… 「……ンな顔すんなよ。 あん時抜け出してきたから、お前に出会えたんだぜ」 歯の浮くような台詞。 だけど、そんな軽いものなんかじゃない。 なんの反応も見せずにいれば、ハイジが僕の手からペットボトルを奪い取る。そして蓋を外し、再び僕の手に押し付ける。 「ちゃんと飲めよ、薬」 「………う、ん」 ゴホッ、ゲホゲホッ…… ひゅぅっと喉が張り付き、苦しさから再び咳き込んでしまう。 「大丈夫かよ」 直ぐにハイジが立ち上がり、丸めた僕の背中を優しく撫でてくれる。 ……ねぇ、ハイジ…… 施設を抜けた後……どうやって生きてきたの? 竜一とは、どうやって知り合ったの? ヤバイ仕事って、一体どんな仕事だったの……? 聞きたい事や知りたい事なら、まだ山ほどある。 ……ゴホッ、ゴホッ、 なのに。タイミング悪く、咳に阻まれてしまう。 「……もう、ゆっくり寝とけ」 「う、ぅん……っ、……ゲホッゲホッ」 咳き込む僕の背中から、ハイジの手が離れる。 そして握り締めた僕の手のひらを優しく広げ、風邪薬を拾う。 「風邪が治ったら、……外、連れ出してやる」 その言葉に驚いて、顔を少し上げる。ハイジの顔色を覗えば、穏やかな表情で僕を見つめたままベッド端に腰を下ろす。 「……だから、ホラ。口開けろ」 言われるまま、唇を割ってハイジに咥内を晒けてみせる。そこにハイジの指先が入り、舌上にそっと落とされるカプセル。 「……」 ……粘膜に触れた指先。 それが少しだけ、震えていた気がした。
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