フレンチ・キス

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フレンチ・キス

××× シャラ…… 首輪に装飾された鎖が揺れる。 フード付きの黒パーカー。 デニムのショートパンツ。 カットソーも、インナーも、靴も。上から下まで全部、ハイジが新たに用意し(そろえ)てくれたもの。 あの日のものは、全てハイジが処分してしまった…… ドゥンドゥンドゥン…… けたたましい音楽。 ディスコボールの光が店内を踊り狂い、人々の顔や身体を、様々な色──赤、緑、青、黄、と一瞬だけ染め上げる。 グラスを傾け、丸テーブルを囲んで談笑するグループ。馬鹿騒ぎをしたり、音に合わせて踊り出すグループ。露出度の高い服を身につけ、男性達を物色する女性グループ。 そんな人達を掻き分け、ハイジが店の奥へと進む。 その背中を僕は、必死で追い掛ける。 熱が下がり、すっかり体調が良くなると、ハイジに引っ張られ一緒に浴室へと入った。 『 ……もう、しねぇから 』──その言葉通り、そういう事は一切してこない。 イスに座らせた僕の髪を洗い、シャワーで洗い流してくれる。 ……ひとりで、出来るから…… そう言った所で、ハイジは聞く耳を持たないだろう。 僕を必要以上に甘やかすのは、ハイジと付き合ってた頃と、何ひとつ変わらない…… こういうのに慣れていない僕は、何だか恥ずかしくて。擽ったくて……心が、なかなか落ち着いてくれない。 肩まで伸びきった髪。 それを後ろで纏め、簡単に水気を切る。 ふと顔を上げれば、ハイジが頭からシャワーを被っていた。 「……ハイジの髪、綺麗」 浴室の照明が、その濡れたハイジの無機質な白金をキラキラと輝かせていた。 「前にも、そんな事言ってたな」 「……うん」 初めて会った時から、人形の髪みたいに綺麗だな……って思ってた。 「コレ、元は白髪なんだよ」 「……え」 「気が付いたら、黒かった髪が見事に真っ白になっちまっててさ。伸びてももう、黒い部分が生えてこないんだぜ? ……だから。どーせなら、白金(プラチナブランド)にしてみよっかなぁーって」 ……ハイジ…… 胸の奥が、ズキンと痛む。 それだけハイジは、辛い目に── ──ザァァッ、 「……っ、」 少し伏せた顔に、容赦なくシャワーを掛けられる。 「んな顔すンなって!」 そう言って、僕に笑顔を向けた。 ……のに。 「さくら……」 浴室を出て、バスマットの上に立った僕の髪を軽く拭いた後、バスタオルを僕の肩に掛けたハイジが、僕の胸元から脇腹辺りをじっと見る。 「………痩せたな」 憂いを帯びた声。浮き出た肋骨に手を伸ばし、そっと触れる。 洗濯板みたいになってしまったその溝を、ひとつひとつ確かめる様になぞりながら、寂しそうな眼を揺らす。 「なんか、……美味いもんでも食いに行くか」 「……」
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