フレンチ・キス

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「……」 すれ違い様、腕を組んだ女が僕を横目で睨みつける。 鼻につく香水の臭いとハイヒールの音を残し、VIPルームを出て行く。 「……バーカ。お前ら何処に目ぇ付けてンだよ」 その後を追う様に、2人、3人……と、残りの女達も出て行く。 しかし、眼中に無かったんだろう。そんな彼女達には目もくれず、ニヤニヤと口元を緩ませながら笑みを漏らす。 女性が全員居なくなると、部屋に残ったのはハイジと僕を除いた男5人。 その中の3人が、僕に興味を示しゆっくりと近付く。 パッ、 ハイジがピンク色の光を消し、本来の照明を点ける。と、男達の瞳の中に、僕の姿がハッキリと映り込む。 「……あれ、」 「ひっ、姫……?!」 「……姫ジャン……!!」 3人の男は、今し方目が覚めたかのように、大きく目を見開く。 ……え…… 見た事のある顔ぶれ。 ──それは、懐かしさと共に、溜まり場にいた頃の楽しかった空気をも運んでくる。 驚いてハイジを見れば、それに気付いたハイジが嬉しそうに口元を緩ませ、僕の肩に腕を回す。 「オレのオンナ。……って事で、こいつにはぜってー手ェ出すなよ!」 テーブルの上に、乱雑に置かれたビールジョッキ。カクテルグラス。櫛切りレモンが底に沈んだビン。等々…… 酒が相当入っているんだろう3人は、ハイジと僕の目の前で、飛んだり跳ねた踊りまくって燥いでいる。 その奥──ドアを背に、燥ぐ3人の向こう側には、先程からソファに座ったまま動かない男が2人。 気になって視線を向ければ、その相手と目が合う。 「───ッ、!」 ドクンッ、と心臓が大きく跳ね上がる。 なん、……で…… 鋭い眼光──腕の内側や指先が、動脈を抑えられたかのようにビリビリと痺れる。 足の感覚も無くなり、ちゃんと立っているのかも解らない…… ……頭が、クラクラする…… 「……っと、」 ハイジの腰に腕を回し、そのまま身を預ける。 「……ごめ、ん……」 「ソコ、座るか?」 そんな僕を支え、ハイジが奥へと誘導する。 「……よぉ、姫」 L字の角──ソファの真ん中辺りに座り、そこから鋭い眼光を向ける奴が冷めた顔で挨拶する。 「元気だった?」 「………」 「楽しかったよなぁ……“あん時”」 口角をクッと吊り上げる。 そして意味深な台詞を吐いた唇が割れ、赤い舌をチラリと見せる。
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