忍び寄る影

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××× 直線的で、強い日差し。 夏の象徴である入道雲に似た、もくもくと立ち登る雲。 だけど、さらりとした空気のせいか。頬を撫でる風が気持ちいい。 若葉の事件以降──一度も袖を通す事のなかった学生服に身を包み、久し振りの学校へと向かう。 暫く報道されていたあの事件は、黒咲アゲハが何者かに切り付けられたという内容(もの)にすり替わっていて、若葉や僕の名前は殆ど上がらなかった。……恐らく、強い圧力が掛かったんだと思う。 それでも。管轄の警察署内には、少なからず事件に関わった警官がいて。裏で繋がりのあるフリージャーナリスト達に、情報を横流ししたんだろう。学校に近付くにつれ、それらしき人物をちらほらと見掛ける。 「……」 きっと、ネタ的に面白いんだろう。 だって僕は、幼い少年達に性的暴行を加えた人気俳優、樫井秀孝の被害者の一人であり、人気急上昇中の若手俳優、黒咲アゲハの弟だ。 加えて、兄殺しで逮捕歴のある若葉の“甥”だという事も、ジャーナリストなら既に知っているんだろうから。 「………工藤さくらくん、だよね?」 ハンチング帽を被った中年男が、歩幅を合わせながら近寄ってくる。 「……」 一見、その辺を屯する覇気の無い中年男性に見えるものの、向けられる眼だけはギラギラと輝いていて。 まるで、ハイエナ──一定の距離を保ったまま獲物を観察し、じわじわとその距離を詰める。そして一気にパーソナルスペースに飛び込み、その場を踏み荒らしながら食い付き、骨の髄までしゃぶり尽くす。 「……」 樫井秀孝の時だって、そうだ。 通ってる学校や住んでるアパートを特定し、被害者である僕の気持ちなんて考えもせず、吊し上げて世間の晒し者にした。 そんな奴の言葉に、耳を貸す必要なんてない。 「黒咲アゲハが首を切られた時、全裸だったらしいね。……彼も、君も」 「──!」 いきなり投げ込まれた爆弾に、一瞬怯む。 その様子にニヤッと口を歪めたジャーナリストを尻目に、真っ直ぐ校門へと向かう。 「……」 その反応が可笑しかったのだろうか。ピッタリと横に張り付かれ、中年のニタついた顔が否応なく視野に入ってくる。 「……兄弟で一体、ナニ……してたのかな……?」 「──!!」 その不躾な物言いに、無性に腹が立つ。 怒りに任せて相手に食って掛かりそうになるのを堪え、奥歯を噛み締めながら校門へと急ぐ。 立ち止まった時点で終わり──コイツの思う壺だ。
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