フレンチ・キス

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太腿に触れた指が内側へと潜り込み、柔らかい部分を何度も揉みしだく。 「堕ちていく姫の姿が堪んなくてよ……今でも時々、思い出しながら抜いてんだぜ……」 執拗に厭らしく柔肌に指先を食い込ませながら、付け根の方へと這い上がっていく。 「楽しかったよな、──“あの日”」 抵抗を見せないと解ると、男の小指と薬指が嬲るようにしてショートパンツの中へと侵入する。 「ハイジには内緒にしといてやるから、シようぜ……」 「………邪魔だから、退かしてくれない?」 努めて冷静に、男へ冷ややかな視線を向ける。 あの日の出来事は、確実に僕の精神を蝕んだ。 でも、先程の怒りが僕を奮い立たせ、精神(こころ)を支えていたのかもしれない…… 僕は──竜一のオンナだ。 こんな下衆に屈して、思い通りにされてたまるか。 「……なんだと?!」 僕の言動に、カチンときたのだろう。ハイジの威を借る僕を。男に媚びを売るしか能のない、非力な僕を。 ドサッ、 太腿に触れる方とは反対の手が、素早く僕の手首を掴んでソファに押し付ける。と同時に、僕の両膝の間に片膝を捩じ込んで僕に迫る。 「“オンナ”のクセにっ!」 ──ハァ、ハァ、ハァ 男の荒い息が、耳元に掛かる。 「……」 だけど、逃げたくはなかった。 あの日植え付けられたトラウマは、確実に僕の精神を破壊し、全身を震えさせ、感情をも萎縮させる。 肥大化してしまったかのように、心臓がバクバクと激しい早鐘を打つ。 ……それでも……逃げたくない…… 無表情のまま、相手を睨みつける。 それが、男の怒火に油を注いだんだろう。みるみる顔が険しくなり、僕の内腿を弄った方の手が、僕の喉元を掴んで押さえ込む。 ……こんな奴、怖くも何ともない…… 男の指を押し返すかの如く、頸動脈がドクドクと強く脈動する。 痺れる脳内。空気を送り込み、何とか冷静さを取り戻そうとする。 だけど──トラウマの沼は、直ぐそこに待ち構えていて。気をつけなければ、簡単に飲み込まれてしまう…… ───ドクンッ、 意志に反して滲む、冷や汗。 激しい動悸。痺れる指先。 迫りくる、男の唇…… 「………止めとけ」 静かに響く低声。 男の肩を掴む、黒い影…… 「ハイジに、殺されたくなければな……」 そう呟いた唇が、男の耳元に寄せられる。 「っ、太一さ……」 「……、」 それが何やら小さく蠢くと、太一に向けられた男の目が見開かれ、次第に僕を掴む手が震え出す。 「………」 力が抜け落ち、喉を掴む手が外れる。 はぁ、はぁ…… やっと真面に呼吸ができ、じりじりとした脳内の痺れが、次第に取り払われていく。 ギラついていた男の眼光が消え、脅えるように揺れながら……みるみる顔が青ざめていく。 一体、何を吹き込まれたんだろう…… 口角を吊り上げ、不気味に微笑む太一。その眼が此方に向けられ、僕の視線とぶつかる。 「……まぁ、許してやってよ。 ついでに、“あの日”の事も……」
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