フレンチ・キス

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頭を傾げて逃れる。 しかし、太一の拘束までは解けない…… 「……ハイジはよォ……俺らをよくここに呼び集めて、これと同じ首輪(わっか)をしたオンナを輪姦させてんだぜ」 ……え…… ゾクッ、……と背筋が凍りつく。 ……ハイジが、そんな事…… 「可哀想に……そのオンナ、顔も身体も痣だらけで。首輪を外してみりゃあ、絞められた跡がクッキリ残っててよ。……すっかり怯えきってたぜ……」 指先が冷え、感覚が無くなっていく。 ……もし、それが事実なら…… さっき僕の隣にいた男がとった行動は、可笑しなものではなかったのかもしれない…… でも……だったら尚更。 どうしてハイジは、僕をあの部屋になんか……… 『こいつには、ぜってー手ぇ出すなよ』 ……ハイジ…… 「俺らの知らねぇ所で、ハイジに何があったのかは知らねぇけど。恐らく、傷害事件で世話になった──辻田ってヤクザの影響だろうな」 暴漢に襲われてる中、ハイジを引き連れて部屋に入ってきた、龍成というヤクザの顔が浮かぶ。 辻田──何処かで、聞いた事があるような…… 「それにしても」 太一のもう片方の手が、カットソーの裾から侵入する。 「会わねぇうちに、随分色っぽくなったなァ………お姫サマ」 首輪に触れていた指が僕の顎先に掛けられ、クィッと天井へと持ち上げられる。 「……こんな美味そうなご馳走、目の前でお預けされちゃあ、堪らないぜ……」 腰から脇腹にかけての曲線(ライン)を確かめる様に、太一の手のひらが肌を滑り上げる。そうしながら耳下の窪みに鼻先を寄せ、スゥと嗅ぐ。 「まぁ、お互い殺されねぇ様、気をつけようぜ」 * ハイジがどんな仕事をしているのか──実際の現場を見たのは、初めてだった。 思い返せば、チームの溜まり場に住んでいた頃から、そういう部分に余り触れなかった気がする。 ハイジ自身が、話さなかったのもあるけど。気になった癖に、僕から聞いた事も無い。 「……」 太一に舐められた耳を拭い、その下の首筋を手で覆う。 剥き出しにされた心臓を、太一の濡れそぼつ大きな舌で執拗に転がされた様な……恐怖と憤り。 『……忘れろ』──太一の熱い息遣い。肌に纏う熱と感触…… 自身の首筋に当てた指が、小さく震える。 ……そんな簡単に……忘れる訳── 「……どうした?」 タクシーの後部座席。 窓ガラスに街のネオンが反射し、車の速度に合わせて光が走る。 ハイジを見れば、穏やかな表情をした瞳が僕を優しく包み込む。 「……」 「なんかあったか?」 「………ううん」 静かにそう答え、再び窓の外へと顔を向ける。
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