連鎖

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『 ……お兄ちゃんが、守るからな 』 いつだったか…… アゲハのいないベッドに忍び込み、泣き疲れて眠る僕の髪を優しく撫でてくれた。 温かくて、擽ったくて、切ない程心地良くて…… 心地良い、アゲハの手。 その手が、薄闇の中……必死に出口へと指し示して…… 『───逃げろッ!! 』 ……どうして…… ここに引き込んだのは、僕なのに。 なんで、こんな僕を─── 「……さくら」 身体を、小さく揺らされる。 次いでその手が、僕の髪にそっと触れた。 「大丈夫か? 随分うなされてたけど……」 アゲハではない声に、パチンッと瞼が開く。 「……」 半分ほど開かれた、遮光カーテン。その隙間から覗く白いレースカーテンが、月明かりでぼんやりと蒼白く光っていた。 ……夢……か…… あんな夢を見たのは、この光のせいかもしれない。 「……震えてンぞ」 ハイジの指先。それが、僕の横髪を梳きながら耳に掛け、脇腹からそっと腹お腹の方へと滑り下りる。 きゅっと背後から抱き締められ、ハイジの温もりに包まれる。 「怖い夢でも、見たのかよ」 ハイジの匂い。項に掛かる熱い吐息。 お腹に回ったハイジの手が僕の手の甲を見つけ、優しく包む。 「……ううん」 「じゃあ、何だよ」 「……」 その温もりは、僕を安心させてくれる。 事情を知らない筈なのに。大丈夫だと言っているようで。 胸の奥にある柔らかな部分が、きゅうっと締め付けられる。 ……ハイジ…… 瞼をそっと下ろす。 と、その裏に、先程の光景が容赦なく映し出され── ぽろっ……ボト、  ぐちゃ。 血濡れて…… それでも僕を助けようと、懸命に手を動かすアゲハ。 「………オレの、せいか?」 囁くような声。 何処か虚ろげで……弱々しい。 「そんなに、怖ぇか……オレが」 何処か諦めた様な、寂しい声。 握られた手が不意に解かれ、布擦れの音と共にハイジの温もりが消えていく。 『………なん、で……だよ…… なんで助けたオレを、そんな瞳で見ンだよ………!!』 瞬間──幼いハイジの叫び声が聞こえたような気がした。 「……」 ……違う…… 違うよ……ハイジ。 ハイジの方へと向きを変え、その温もりを追いかける。 腕を伸ばし、ハイジの背中を捉えると、遠慮がちに身を擦り寄せた。
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