連鎖

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分娩室で僕を出産中、病院に駆け付けようとした父が交通事故で死亡。 僕が、全ての元凶──愛する()の死に目に会えなかった深い悲しみは、やがて母の心を蝕み、僕が視界に入る度にヒステリックを起こすようになっていた。 物心ついた頃から、母から蔑まされた目を向けられているのには気付いていた。 どうして僕には、優しく微笑んで……抱き締めてくれないの……? 淋しかったのを覚えてる。 おばあちゃんが、母の代わりに僕の面倒を見てくれた。だけど、放任した母を決して咎めたりはしなかった。 『お母さんを許してやって頂戴ね』──きっと、僕の面倒を見ていたのも……母の為。 結局、僕よりも母の方が大切な存在だったんだろう。 初めておばあちゃんから交通事故の事を聞かされた日から、僕は自分の存在を呪うようになっていた。 ……僕のせいだ。 僕が産まれたから、父が死んじゃったんだ。 母の言うとおり、僕は産まれてこなければ良かったんだ。……そう、何度も何度も自分を責めた。 母に殺されても、仕方がない人間なんだって。 『そういう、運命だったんだ』──おばあちゃんは、そう言ってた。 でも、そうじゃなかった。 おばあちゃんは、知ってたんだと思う。何故、母が僕の首に手を掛けたのか。殺したい程憎んでいたのか…… 「何でそこまで、さくらが憎まれなきゃなんねーンだよ!」 溜め息混じりに、ハイジがそう吐き捨てる。 僕のために不機嫌になったんだと思い、ハイジの背中に当てた手にギュッと力を籠める。 「……それは……僕が、若葉の子供だから……」 そう、小さく吐き出す。 ──その刹那、二の腕を強く掴まれ勢いよく引き剥がされる。 「………ハァ?!」 見開かれた眼。 眉間に皺を寄せ、信じられないといった様子で僕を見据える。 「……若葉が、母をレイプして……それで産まれたのが……僕、だから……」 「………マジかよ」 僕だって……信じられなかったよ。 でも、母の仕打ちを思えば……腑に落ちる。 「……」 目を伏せ、ハイジを視界から追い出す。 若葉は、組長になるかもしれないヤクザのオンナ。 父の実弟で……父を殺した犯人── アゲハの頚動脈を切り裂き、血濡れたバタフライナイフを握り締め…… 心を乱す事なく僕を追いかけ、捕まえて殺そうと─── 背筋に悪寒が走り、ブルッと体が震える。 僕の体内(ナカ)に、そんな人の血が流れている。 いつか僕も、若葉のようになってしまうんだろうか。 目的の為に、他人を傷付けて。 その人の人生を狂わせ、例え殺しても厭わない── ──サイコパスみたいな人間に。
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