雨と雨とを持ち寄って

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☆ 今日の終わりに、やっと出来た彼女にスマホ越しにおやすみをして。 ふと目に入った部屋の片隅のギター。 そう言えばしばらく弾いてないなあ。 昔はギター弾ける仕事に就きたいと真剣に思ってたのに、まだ彼女にすら聴かせてない。 たまには、と思って伸ばした右手を時計が引っ込ませる。もう夜中じゃん。 子供の声が騒音になるんだから、人が爪弾く昔の夢なんて他人にとっては騒音もいいところ。 本来の意味での「壁ドン」されちゃうよ。 壁ドンみたいに荒っぽくはないけど、雨が窓を叩いてる。 雨。雨の歌はたくさんあるよね。 物語もたくさん。 雨は物語の名脇役。 雨は歌の歌詞の良き舞台設定。 世の中は俺達に雨を降らせてるんだ!と激しいビートで拳を振り上げてみたり。 僕らと一緒に空も泣いているよ、と切なくバラードで歌い上げたり。 そんなヒット曲はほんとにたくさんあるけど。 雨が上がったよ、というヒット曲はあんまり思い出せない。 あるにはあるけど、そこにはだいたい虹が出ていてメインは虹の歌になってたり。 じゃあ雨は悪者、悪役が似合うのかって言うとそんなイメージでもない不思議。 どっちかって言うとあんまりいじめたらかわいそう。 逆に都会なんかはよく砂漠にも例えられる。 砂漠だったらオアシスを探すよね。 水がないと人は生きて行けないから。 それなのに雨は歌の中では、便利な悲しみの代弁者として使われる。或いは怒り。 同じ水でもオアシスを見つけて悲しいなんて聞いた事ないのにね。 そうだな、どっちかと言えば雨は好きかも。 ゲリラ豪雨は許さないけど、このくらいの小雨なら。 雨って、漫画みたいに流線型で降って来るんじゃないんだって。 空気抵抗をぎゅぎゅっと受けて、真ん中が凹んだ形になるんだって。降って来るのも大変だよ。 雨も苦労してるんだよ。 きっとあいつらも、心に雨が降っているんだよ。 いつも歌の歌詞の切なさ要員として使われるんだから、そりゃヘイトも溜まるだろう。 ああ、なんだか眠たくなくなった。 明日も仕事だ、それがなんだ。 だからどうしたそんなの知らない。 外は雨が降っている、それがなんだ。 だからどうしたそんなの知らない。 僕は今、人生に何の不満もないけれど。 だからこそ雨の歌に共感するのかもしれない。 だからこそ雨の歌が聴きたいのかもしれない。 傘を片手に外へ出た。
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