誠意

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誠意

「貴殿の協力に感謝する。トリ・コトラ殿」 シルビアがコトラに丁寧に頭を下げる。後ろではルリも同じように頭を下げていた。 「頭をあげてください。もう私は貴族ではないんですから」 コトラは2人の態度に戸惑いを隠せない。 「だが、コトラ殿が父上から下級貴族のネットワークを聞き出してくれなければ、これだけの人数は集まらなかっただろう」 「コトラでいいですよ。それに私も父と改めて話せて良かったです。今までは親子というよりは他人に近い存在だったんですけど、初めて親子としてお互いを理解しようとした気がします」 穏やかなコトラに2人は自然と笑顔になる。 「さて、ここからは我々の仕事だ。ルリ、発案者のお前に全てをかけるぞ」 「はい。お任せください、姉上」 コトラに見送られ、2人は大勢の人が集まる広間へ向かった。 広間には50人ほどが集められていた。全て下級貴族の当主だ。 「この度はお集まりいただきありがとうございます」 ルリが皆の前に立つ。後ろにはシルビアがついている。 話しかけられた人達は、訝しむ者、期待する者、たいして興味のない者、様々だ。 「まずは謝罪を伝えたい。皆は貴族でありながら長年その地位を奪われ、誇りを、責務を奪われ生きてきた。皆をその立場へ追いやった者の一員として、誠に申し訳なかったと思う。すまなかった」 ルリとシルビアが深く頭を下げると、ざわざわと戸惑う声があがる。 「その上で、皆の地位を回復し貴族としての務めを果たしてもらおうと、こうして話し合いの場をもうけさせてもらった」 戸惑いの声は更に大きくなる。そのうち、質問ともヤジともつかない声があがってきた。 「何か企んでるんじゃないのか」 「俺たちに今更何させようってんだよ」 ルリはある程度の混乱は予想していたので気にせず続ける。 「戸惑うのも無理はない。だが、事態は急を要する。反乱グループが日に日に力をつけ治安が脅かされている。我々貴族が団結して挑まねば、世界は争いの中に落ちてしまうことになる」 まだ混乱はおさまらない。中には「お偉いヤツらで好きにしてろ」と出ていってしまう者まででてきた。 『全員を説得できないことはわかっている。果たして何人残ってくれるか』 「己の力を世界のために使う。それが我々の誇りではなかったか。争い蹴落としあって本来の役目を蔑ろにする日々は終わらせよう。今こそ力をあわせて責務を果たすのだ」 どんどんと人が出ていく。だが、反対にルリの近くに寄ってきて真剣に話を聞く者も現れだした。 最終的には半数以上の人が残り、ルリに色々と聞いてきた。 「本当に僕達でも役に立てるのか?」 「もちろんだ」 「私の友達は市民街に行っちゃって市民同然の暮らししてるけど、声かけてみてもいいかしら?」 「ああ。助かる。他にも話ができそうな人がいればいつでも何人でも連れてきてくれ」 残った者には若い人が多く、歳の近いルリに共感して話に乗ってくれた。 『これでやっと一歩。だが思ったより人が残ってくれた。あとは彼らと共に反乱を起こす隙がないほどの状態を作り上げられれば』 一安心するにはまだ早いと、ルリは気合を入れ直した。 「相変わらず地味な事務所だねぇ」 ルリが下級貴族達との話し合いに挑んだ数日後、ソラのもとにはシキが訪ねてきていた。 「あれ?シキさん。こんにちは」 「シキさん⁉︎お久しぶりです!」 「ああ。こんにちは。久しぶり。2人とも元気そうで何よりだよ」 シキは笑顔で事務所に入ってくる。 「カナリさんもシキさんと知り合いなんですか?」 「コイツは意外と諜報員の才能があってね。以前中央に来た時に、仕事の合間に色々教え込んだんだよ」 「うっす!その節はお世話になりました!」 カナリは笑顔でシキに敬礼する。 今事務所にはソラ、カナリ、トキだけがいる。おそらくシキはタイミングを見て自分の知り合いだけがいる時に来たのだろう。ソラは感心していた。 「それで、突然どうしたんですか。シキさん」 若者2人がシキとの再会を喜ぶのを待ってから、トキが話しかける。 「なぁに。ちょっと話があってね。トキ、少し時間をもらえるかい」 「おやおや。シキさんに言われたら行かないわけにはいきませんね。すみません、2人とも。少し出てきますよ」 「はい!いってらっしゃい!」 「いってらっしゃい!」 若者2人に見送られ、トキとシキは事務所を出ていく。 「ソラもシキさんと知り合いだったんだな」 「はい。中央で食事に連れて行ってもらいました」 ルリの件は話せないので当たり障りのないことを話す。 そうこうしているうちに2人が帰ってきた。 「じゃあ、私は帰るとするかね。ソラ、駅まで送ってくれるかい?」 「はい。喜んで」 「シキさん、俺は?」 「アンタはまた今度」 ちぇっと言いながらカナリはシキを見送った。ソラはシキを車で駅まで送る。 「アンタの幼馴染は頑張ってるよ」 シキはニヤッと笑いながら、ルリが下級貴族と共に政治の空白を埋めようとしてることを教えてくれた。そしてその動きのおかげで軍の内部でも武器提供を断る話がでていることも。 「さすがルリです」 ソラは友人の活躍を我が事のように喜んだ。 「人を動かすのは最終的には誠実さだからね。我欲も嘘もない真摯な言葉だからこそ人の心に届くのさ。アンタの幼馴染は自然とそれができてる」 「はい!ルリは昔からただただ世界のためにと思って生きてきた人ですから!」 「助ける助ける言ってたが、アンタが助けなくても幼馴染は大丈夫なんじゃないかい」 「それは……」 それはソラも薄々勘付いていたことだった。ルリはソラの助けなどなくてもきちんと自分の道を歩いている。 「まあ、アンタはアンタで頑張るしかないね。近々やってもらうこともあるから、まずは自分のできることをやりな」 「やってもらうこと?」 「それは準備ができるまでのお楽しみさ」 シキはカラカラと笑う。 何か大きな流れが起きようとしている。ただソラはその流れとは遠く離れたところで、日々を過ごすことしかできないでいた。
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