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あなたと会えたから
「ルリ様……?ソラ……?」
幹部達を追い払い、ひと段落してからアサギが連れてこられたのはルリの家だった。
「アサギ!成功したんだな!良かった!」
「よくやったな」
鳥から聞いた声と同じ声がアサギを迎える。
「2人とも……うん。成功したよ。2人が励ましてくれたおかげだ」
アサギがその場で涙ぐむ。2人は慌てて駆け寄った。
「ホッとしたんだな。アサギ、頑張ったな」
「なんでお前まで泣きそうになってるんだ」
「だって〜」
一緒に泣きそうになるソラと冷静なツッコミをいれるルリに、アサギは笑いそうになる。
「でも、なんで2人が?それに気合いを入れるって?」
突然連れてこられて何もわかっていないアサギに、ルリが簡単に説明する。
「詳しいことは後だが。このあとソラの担当している町が襲われる」
驚いてソラを見る。だが、自分の町が襲われるとは思えないほど落ち着いていた。
「なんで?」
「教会の幹部らが、反乱が起きて町が被害を受ければまた軍と武器の交渉ができると考えたんだ。それで反乱グループと手を組んで町を襲う計画を立てた」
「そんな……しかもそれがソラのいる町だなんて」
ショックを受けるアサギに、ソラは焦ってフォローする。
「いや、それはわざとなんだ。相手の情報を操作してアヤがターゲットになるように仕向けた」
「え?なんでそんなこと」
「そうすれば迎え撃つ準備ができるだろ。大丈夫。うちの隊の人達は皆強いから」
頼もしく笑うソラは、軍服を着ているのと相まって随分と大人になったように感じた。
「でもアサギに会えて更にやる気が湧いたよ。2人とも頑張ったんだから、次は俺の番だな!」
「そうだな。そろそろ出ないと作戦に遅れ……」
バサァァァ!
ルリがソラをせかそうとしたところで、庭から大きな音が聞こえた。全員で庭に出ると大きな鳥が降り立ち、小さな人影が飛び降りてきた。
「ソラ!思ったより早く敵が動いた!今すぐ俺と一緒にアヤに戻るぞ!」
プテノから飛び降りたヒスイがソラの腕を引っ掴む。
「え!早い!もっとアサギと話したかったのに〜」
ソラはブーブー言いながらヒスイと共にプテノの背に乗った。
「じゃあ、いってきます!」
元気いっぱいにソラが手を振る。とても戦場に行くとは思えない雰囲気に、2人はそれでも心配しながら手を振って見送る。
「ソラ、気をつけてね。怪我しないでね」
「他の人の足を引っ張らないように頑張るんだぞ」
プテノが飛び立つ。2人は姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
「ヒスイ、もう敵は動き出してるのか?」
「まだ準備してるとこって感じだから、動き出すまでには着ける」
ソラはそれを聞いてホッとした。そして、ふとヒスイと出会った時のことを思い出した。
「ヒスイ。初めて会った時にルリのことを話したら、会えたらいいなって言ってくれたよな。その通りになった」
「………」
「あの夜がなかったら、俺はルリにもアサギにも会えなかった。世界のことも何も知らず、アヤでのんびり過ごしてるだけだった。それはそれで幸せだったかもしれないけど、俺はあの夜にヒスイに会えて良かったと思うよ。だから、ありがとう」
「………礼を言われるようなことはしてない。全部お前が頑張った結果だ」
「でも、やっぱりありがとうだよ」
「………どういたしまして。さあ、あんまり喋ってるぞ舌噛むぞ。スピードあげていくからな」
照れるヒスイを見て『伝えて良かった』と思いながら、ソラはプテノにしっかりとしがみついた。
しばらく飛ぶとアヤの町に着いた。目立たないところに降り立ち、プテノから飛び降りる。作戦ポイントへ急ぐソラの手は震えていた。
「ソラ………」
ヒスイがソラの手を握る。
「大丈夫だ。作戦は絶対成功する。アヤの町の人達は何も怖い思いをせず、自分たちの町が襲われたことすら気づかない。だって、お前の仕事は町を守ることだろ」
優しく笑う目が勝利を信じてくれている。気づくとソラの手の震えはおさまっていた。
「……前にアヤの話を聞かせてくれって言ったよな。今回のことが終わったら町を案内するよ。美味しいお菓子も優しい人も。アヤの良いところ全部教えてやるからな!」
手を振りながら笑顔でソラが走り去る。その姿を見送って、ヒスイは空を見上げながら呟いた。
「なあ、ナズ。お前に会って世界が変わった俺が、他の人の世界を変えたって言われたよ。不思議だな。お前の巻いた種は、どんどん広がって世界を変えていってる」
返事はない。優しい風が吹くだけだった。
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