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水上都市ベーネは辛うじてある島のような陸地の上に、建物と建物を橋で結ぶようにして土地を確保した街だ。
大雨なんて丸一日でも続けば水位は上がり、一階部分が水没してしまう。
三日となれば三階まで。
住民の数の避難場所など到底確保できず、しかも水が引いたあとは病気が流行る。
他の場所で重宝される水乞いの魔術も、この都市においては死刑に値する。
必ずと言っていいほど流される人間がいるのと、建物の影響を確認するために雨上がりにはいつも警ら隊が出動する。
移動手段はゴンドラで、これがなければ買い物にだって出られない。
土の植物は皆雨が降ると流されてしまうので非常に貴重。
このセッティと言う娘も農園の娘だったようだが、そうなれば相当な金持ちのはず。
なんせ栽培地を確保するために、大量の舟を水上に浮かべなければならないのだ。
人々はゴンドラに乗って移動し、植物は舟の上で揺られている。
洗濯物は建物の間を旗のように泳ぎ、隣家との物々交換で物が飛び交う。時折人も。
それがベーネの日常風景。
水星歴六八三年ともなれば百年ちょっと前なので、生活様式はあまり変わらないはずだ。
これはいいネタかもしれない。
そう思ったポッツォは、公文書館から自宅までの道のりを、ずっとこのセッティについて考えて帰宅した。
そして支配人から告げられていた期限である二週間後、彼はようやく悲劇を書き上げ提出した。
そしてさらに二か月後、水上都市ベーネ随一の劇場、船上のアクア・オペラにて上演が開始された。
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