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――第二幕
靴の中は泥まみれ。
スカートは重りのように湿っている。
いくら晴れでも濡れた服は体温を奪い、少女は足元から震えてくる。
それでも重い土を運ぶことを止めるわけにはいかず、彼女は髪にも顔にも土を付け、農園の娘としての役目を果たそうとした。
水たまりを踏みしめる軍靴の音に顔を上げると、精悍な若き兵士が列をなしてやって来た。
土まみれの少女だけでなく、彼女の母も父も、そして使用人もまた彼らに頭を下げる。
中の一人が、父に話しかけた。
「大変な雨であった。被害はないか?」
「お陰様で大きな被害はございません。なに、土が流れるのはいつものこと。舟は全て無事ですし、作物もこれなら耐えられそうです。御覧の通り、我々一同も無事でございます」
「そうか。大事無くてよかった。大変な作業に感謝する」
「勿体ないお言葉にございます」
青年は父親と言葉を交わすと、また隊列に戻って行った。
少女はすれ違いざまに彼女に微笑みかける青年の顔を見た。
あれは、城の王子様?
それとも劇場の主演男優?
太陽みたいな金色の髪
意志の強い瞳はエメラルドで作られているの?
ああ、引き締まった口元が私に微笑みかけている。
私と同じ泥まみれの姿なのに、どうしてあなたはそんなに輝いているの?
少女は一目で心奪われ、そして自分の姿を見ると恥じた。
私はただの泥人形。
農作業で髪はパサパサ。
爪の間は土まみれ。
麻のエプロンはごわごわ。
鼻先に土をつけた娘が、魅力的なわけがない。
青年の存在に心躍らせた少女は、また憂鬱の中に沈んだ。
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