水恋の魔女

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――第三幕  あの大雨はなんだったのか。  しばらく続いた快晴は、少女の心をまたも憂鬱にしていた。  雨が降らず、兵士は警らにやって来ない。    雨、降らないかな。  そうしたらまた、あの青年がきっと来る。    それから三日経つと、待ち望んだ雨になった。  雨だわ。  雨。  なんて素敵な日なの。  乾いた土が潤っていく。  植物の緑が鮮やかになる。   「空よ、それは喜びの涙? 恋を知った私に、あなたも一緒に喜んでくれるの?」  少女は浮かれ、雨の中を唄い踊る。  やがて雨は止み、警ら隊の見回りが始まった。 「農園の主よ、大事はないか?」  警ら隊の中には、またあの光り輝く青年がいた。  オペラのテノール歌手のような優しい声が、今日も父に話しかける。 「見回り、お疲れ様にございます。ありがたいことに、今日の雨はただの恵となりました」 「それはよかった。これはオレンジの木か? 豊作を祈る」 「勿体ないお言葉。実りの暁には、警らの皆さまにもご献上いたしましょう」 「それは楽しみだ」  青年は話を終えると、また少女とすれ違いざまに微笑んだ。    ああ、なんて素敵なの!   雨を! もっと雨を!  私の恋しいあの人を、どうかもっと連れて来て!  農園の娘セッティは、蕩けるような目で青年を見送った。  彼女の背後に、もっと泥にまみれたみすぼらしくも美しい女がいたが、青年の微笑みに夢中のセッティには気づけなかった。
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