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…ワシは、今まで雨の日は嫌いやった。
気圧で身体ダルいし頭も痛うなるから、仕事にも実が入らん。
自転車通勤やから、雨ガッパ着て帰るけど、あんまり雨防げんで、スーツを濡らして溜息つく事もしばしば…
そんな憂鬱な雨の日やったけど…
「藤次さん!」
「!」
地検の軒先で雨宿りしとったら、絢音が笑顔で、迎えに来てくれる。
今日みたいな急な雨の日以外にも、雨の日には決まって絢音が迎えに来てくれるようになった。
地検まで道あるし、絢音かて服濡れるやろに、絢音は文句一つ言わんと来てくれる。
なんで来てくれるんやて聞いたら、頬真っ赤に染めて、こう言うた。
「相合傘、したいから…」
やと。
なんともまあ、可愛い可愛い理由過ぎて、それからというもの、ワシは雨の日が嬉しくなって、絢音と2人で入っても濡れにくいサイズの大きい傘を買って、今日もまた、紫陽花薫る京都の街を、相合傘で仲良く…長屋街に向かって歩いていく。
「大分小雨になってきたけど、絢音濡れてへんか?」
「うん。大丈夫。藤次さんが、肩をしっかり抱きしめて、守ってくれてるから♡」
そう言ってピトッと身体に引っ付いてくるもんやから、もう可愛いて可愛いて、いっそ雨宿りや言うてラブホ行って抱きたい気持ちでいっぱいになってたときやった。
「あ!虹!!」
「ん?」
指差す先を一緒に見たら、雲の切れ間の茜空に薄っすら煌めく、七色の橋。
「綺麗やなぁ。そやし、虹やなんて久しぶりに見たわ。普段こんなにのんびり空見上げること無いからなぁ〜」
なんかええ事ありそやなぁと、傘を畳んでそんな事を口にしとったら、絢音がそっと寄り添ってきたから、なんやと言うたら…
「藤次さん。いつも大変なお仕事、お疲れ様。今日は藤次さんの好きな物たくさん作ったから、残さず食べてね。」
「絢音…」
…ああ。
ホンマにホンマに。
ワシ、この娘と結婚して、良かったなぁ。
この娘に愛されて、愛する人生を歩めて、幸せやな。
言葉にならない気持ちを表すかのように、ワシは虹の煌めく夕空の下で、愛しい君の唇にそっと口付けると、夕日に負けんくらい顔赤くした絢音の肩をしっかりと抱いて、家路についた。
ありがとうな。
こない些細なことで舞い上がる単純な男、旦那に選んでくれて。
そやし、あの虹に、君を一生かけて幸せにするて、約束するわ。
せやからずっと、側にいてや?
愛しい愛しい、
俺だけの、絢音…
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