第31話「『同族』」

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第31話「『同族』」

 俺は今、正座をさせられていた。  俺の前には二人の少女が立っている。  レイラ・セレスティアと、ルクス・セルロスフォカロの二名である。    彼女達はお怒りである。なぜか?  俺がルクスの風呂を覗いていたからだ。   「……もうしません」 「ほんと?」 「はい」    殴られた箇所を『ヒール』で癒した俺だが、二人の怒りまでは癒せなかった。    レイラに詰められる……俺はルクスを問い詰めに来た。  その為に部屋に来たはず……なのにどうしてこうなった?  俺は分からない……いやもちろん分かっているんだが。   「もういいですレイラ……さん」 「レイラが良くない。アスフィはレイラを裏切った」 「……裏切っては無い……ですはい」 「どうして? 他の女、よりにもよってこの女! アスフィは自分を殺そうとした女の裸なんて見て興奮するの!?」 「………なんか私がすみません」    ルクスが謝ってくる。  俺はいたたまれない気持ちになった。   「ルクスが謝ることじゃないよ、僕が悪いから」 「アスフィはレイラの胸が好きなんだよね。こんな小さいので満足できるの!?」    レイラはバスタオル一枚の姿であるルクスを指差し言う。  そのルクスはというと、自分の胸を手で抑えながら、  しょんぼりとしていた。……なんか可哀想。余程コンプレックスなんだろうな……。   「ルクスの体はこの国の宝なんだよ!? レイラ――」    と言いかけたところで殴られた。   「もうアスフィなんて知らないっ! 二度と部屋に戻ってこないで!」    と勢いよく出ていった。また怒らせてしまった。しかも今回は相当お怒りだ。恐らく前回を上回ってしまっただろう……。   「どうしよう大人のルクスさん……」 「こういう時だけ大人扱いはやめてください……」    俺は大人であるルクス二十一歳に助けを求めたが、あっさり断られてしまった。  俺はバスタオル姿のルクスと二人っきりになった。  流石にどうしよう……いやほんと。  レイラ、謝っても許してくれないだろうなぁ……そもそも部屋に入れてくれなそうだ。   「レイラ……さんは本当にアスフィが好きなんですね」 「まあ怒らせちゃったけどね」 「……アスフィ、今回はあなたが悪いです。私の裸なんて見ているからです。こんな、なんの魅力もない体を見てレイラとケンカをするのは間違っていますよ」    なんてことを言うんだ! ルクスは確かに小さいよ?  でもその小ささ、そしてその白い肌全てがマッチして初めてルクスの魅力になるんだ。過小評価にも程がある!!   「ルクスの体は国の宝だよ! 僕はそう思うね!」 「……それは喜んだ方がいいのでしょうか。まぁ嬉しくないと言えば嘘になりますが、そういうところだと思いますよアスフィ」    あ……。俺は時々自分を制御出来ない節があるな。   「……アスフィ。いい加減その自分を『偽る(・・)』のやめませんか? ……ここには今私しかいません」 「……何を言ってるの?」 「私には分かります。同族の匂いがします。アスフィ、あなたは隠している。自分を」 「………どうしてそうおもうの?」 「分かるんですよ。私もそうですから」    十二歳の子供相手に何を言っているんだルクスは。  俺が偽っている? 『偽る』? どうして?  何故そんなことをする必要がある……?  ……  …………  ………………    「………………………どうして分かったんだ?」 「分かりますよ、同族ですから」 「俺が君の同族だって?」 「ええ、あなたは私と同じ人間ではない匂いがします」 「……俺が人間では無い……か。面白いねそれ」 「面白くなんかありません。悲しいだけです」 「………ルクス、君は俺の何を知っている?」 「私は何も知りませんよ。知っているのはあなたですアスフィ。あなた自身があなたを隠している、それだけです」    ルクスは言った。真剣な眼差しで。  ここに来てようやくいつもの『先生』になった。   「……はぁ……別に隠したくて隠してる訳じゃないよ。俺は自分が何者なのか知りたい、それだけなんだよルクス」 「というと?」 「……君が言う人間では無い(・・・・・・)と言うのなら俺は何者なのかってことだ。……俺は全て覚えている。君になにをしたのかも」    俺は思い出していた……いや違うな。  覚えていた……その全てを。それを隠していた。俺自身が。   「……そうでしたか。私はあの日、初めて恐怖しました。負けたからではありません。あなたの内に秘めている闇にです」 「俺は何者なんだルクス」 「私も分かりません。ただ、ひとつ言えることはあなたと私は『同族』だということです」 「それはさっき言った人間ではないと?」 「はい」 「……そうか。分かった、もういい」 「……どこへ行くつもりですか?」 「部屋に戻る。疲れたから俺は寝る」 「……戻れないじゃないですか……」 「……あ」    俺はすっかり忘れていた……俺は今、自分の部屋に戻れないのであった。   「私のベッド使って下さい」 「……俺が使ったらルクスはどうするんだ?」 「私は床で寝ます」    それはダメだ。先生を床に寝かすなんて出来るわけがない。これでも一応生徒のつもりだからな。   「なら俺と寝ようルクス」 「……はい!?」    俺はルクスの部屋でルクスと共に寝ることにした。  ルクスはいい匂いがした。    ***     朝が来た。いつもはレイラが歯を磨いている時間だ。  だが、この部屋にレイラは居ない。  居るのは隣で寝ているルクスだけだ。   「こんなとこレイラに見られたら殺されるな、俺」    俺は『同族』であるというルクスといると、  なんだか安心する。レイラといる時とは違う安心感だ。  ルクスはまだ眠っていた。ルクスとの魔法の時間はいつも昼からだ。   「……流石に、ないよな?」    昼まで寝ているなんてことはないよな?  別に悪い訳では無いが、俺の中ではあのクールで何でもできるルクスが寝坊助というのは中々にイメージが崩れる。  いつも朝は剣術の修行がある。時々俺は寝坊をすることがある。その時はエルザかレイラが起こしに来る。    だが今日は誰も起こしに来ない。  久しぶりの休日だ……レイラと『デート』した日以来か。  俺はすることが無いので、もう一度寝ることにした。   「おやすみぃ」    ……  …………  ………………    昼になった。目を開けた。   「起きましたか、アスフィ」 「……ああ、おはようルクス」 「顔洗ってきて下さい。勉強の時間です」    ルクスはベッドに座って本を読んでいた。  そういえばレイラも同じことをしていたな……。   「もういいよ……俺疲れたし。それに魔法はもう勉強になった  」    ルクスは詠唱の種類や魔法の名前何かを色々教えてくれた。  もう大丈夫だ……魔法はもう。どうせ俺は使えない。  なら教えて貰っても意味が無い……。俺は酷く後ろ向きになっていた。 全てがどうでも良くなっていた。  レイラと喧嘩をし、自分が『人間では無い』と言われる。  一日に起きる出来事としてはあまりにも疲労する内容だ。  そうしてもう一度寝ようとする俺にルクスは――   「そうですか。では魔法の勉強は終わりにしましょう。代わりに私の話をします」    するとルクスは両手でパンッと本を閉じ、俺に向かいあった。      そうしてルクスは、  ルクス・セルロスフォカロという人物について語り始めた。
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