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第32話 「ルクス・セルロスフォカロの人生」【ルクス視点】
私の名前はルクス・セルロスフォカロ。
いつ生まれたのか分からない出自不明のはぐれ者だ。
私は生まれた時から、この白髪と赤い目である。覚えているのは名前の分からない兄が居た事くらいだ。
とはいえ、兄と会ったことは一度も無い。兄が居たのを覚えているのにも関わらず、その名前やまして会ったことすらないなんて不思議に思うだろう。私にも何故かは分からない。
そして、この容姿だ。それ故に誰も近づこうとしない。一人の男を除いて――
「よう、お嬢ちゃん。良かったら俺とデートしないかい」
私に話しかけてきたのは、
黒いローブとフードを被った謎の男だった。
その怪しげな格好からその男もまたはぐれ者だった。
「……俺の名はレイモンド・セレスティアだ。嬢ちゃんの名前は?」
レイモンドと名乗る男は、
当時まだ十歳の私に屈みながら握手を求めてきた。
「名前はない……です」
「……うーん、そっか分かった。なら俺が付ける」
「なぜそうなるんですか」
「じゃないと呼べないだろ?」
「……私はあなたについて行く気はありません」
「つれないねぇ……」
私はレイモンドの手を払い除けた。当時の私は大人が嫌いだった。私に両親はいない。ボロボロの布を一枚纏い、ゴミを漁る。そんな毎日を当時十歳の私は繰り返す日々だった。全ては生きる為だ。その日は雨だった。レイモンドはそんな中フードを外し私に名前を付けると言ってきた。レイモンドはヒューマンだった。
「今日からお嬢ちゃんの名前は、ルクス・セルロスフォカロだ」
「……長いし分かりにくい」
「良いじゃねぇか! カッコイイだろ?」
「……私の性別は女です」
「分かってるって! よろしくなルクス!」
そう言ったレイモンドと名乗る男は私の名付け親になった。
私は適当に付けたような名前に酷く嫌悪感を覚えた。
レイモンドは私を子供扱いしてくる。
実際私は子供だった。ただ、私を子供扱いするものはこの町には居なかった。ここは女、子供関係ない。良くも悪くも等しく皆平等だ。子供だからと食べ物を恵んでくれたり、家を貸してくれたり、なんて事は無い。皆自分が生きるのに必死だから。そんな中私を子供扱いしたものがいる。それがこのレイモンドという男だ。
「なぁルクス」
「……」
「セルロスフォカロ」
「……ルクスでいいです」
「じゃあルクス! お前その口調しんどくないか?」
「別に大丈夫です」
「……そうか」
レイモンドはどこか悲しげな目だった。
今より小さい頃の私は敬語ではなかった。
だが、ある大人が私の生意気な口調が気に食わなかったらしく、私は何度も殴られた。それから私は大人の喋り方を勉強した。そしてそれが今もずっと根付いて離れない。
「ま、ゆっくり直してこーや」
「私は直す気はありません」
レイモンドと私はしばらく行動を共にした。
彼は魔法使いだった。それも腕利きの。
私たちが住む町は俗に言う貧民街という場所だ。
ここは町なのにも関わらず、魔物や魔獣が頻繁に出没する。
故にこの町の人間に余裕などない。女だろうが、子供だろうが関係ない。人の身より自分の身。それがこの町の日常だ。
そんな町でレイモンドは魔物や魔獣を倒すためにギルドから派遣された冒険者らしい。私は彼の強さを目の当たりにした。
彼は無詠唱で魔法をつかっていたのだ。
ある日レイモンドが珍しく詠唱していた。
無詠唱で魔法を使えるレイモンドだが、
その彼が詠唱を唱える……それほどの相手だったという事だ。町に出没したのはマンティコアという魔獣。
ライオンのような見た目をした怪物。ギルドの判定ではA級にあたる魔獣らしい。
爪は巨大で一発でも貰ったら即死級である。
町の住人では手をつけられない魔獣がそこにいた。
そして彼は……レイモンドは化け物の前に立つ。
「天から授かりしこの『祝福ちから』」
凄まじい魔力だ。
「ああ、嵐よ。草原を焼き付くさんとする炎(ほむら)の力よ」
周囲の人間は避難している。
この時、私はレイモンドの後ろにいた。
彼の後ろにいても伝わるこの凄まじい魔力。
「今こそ全てを焼き払い荒れ狂え」
そして唱える。
『――爆炎の嵐(ファイアーストーム)!』
マンティコアは塵となった。その場には何も残らない。
私は初めてレイモンドをすごいと思った。
当時十歳の私は大人が嫌いだった。
それはレイモンドも例外ではなかった。
しかしレイモンドは強かった。 この町の誰よりも強く、そして私に優しかった。それが私の憧れる理由には十分だった。
そしてまたある時、
私はレイモンドが以前唱えていた魔法を唱えてみることにした。私は記憶力がいい方だった。
レイモンドが以前唱えていた詠唱を一度で全て暗記していた。
「はっはっは! ルクスお前にはまだはや――」
詠唱を唱え終わった。
『爆炎の嵐(ファイアーストーム)!』
レイモンドは私がまさか撃てるとは思っていなかった。
それは私もだ。だから町で撃ってしまった。
町は炎に包まれた……町の人間は私を睨みつけた。
「……うそん」
レイモンドは呟いた……。
これが初めて私が魔法を撃った日であり、
初めて上級魔法を使った日である。
そしてまた『白い悪魔』と呼ばれ始めた日でもあった。
ちなみにこのとき、詠唱は仮に覚えてなかったとしても、私は魔法をうてていたと思う。
***
私とレイモンドは町を出た。
どうやら町の人間を怒らせてしまったようだ。
それらは私を酷く非難した。
白い髪に赤い目をして幼いながらも上級魔法を扱うその様から、私を『白い悪魔』と呼ぶ人間が続出した。
そしてそれは瞬く間にこの世界に広まることになる。
「はっはっはっ! 良いじゃねぇか! 『白い悪魔』! かっこいいじゃねえか! はっはっはっ!」
レイモンドは笑っていた。
私は気に入らなかった。『白い悪魔』なんてまるで悪者にでもなった気分だ。
「撃てると思わなかったんだもん」
「はっはっはっ……それは俺もだ! まぁいいじゃねぇか! ルクス! これで町を出れたんだ! アイツらが気に入らなかったんだろ?」
「うん」
「じゃあ良いじゃねぇか! はっはっはっ!」
「レイモンドうるさい」
「………はぁ、うん。お前はその口調がいい。あんな堅苦しい話し方はやめろ」
「……あ。……やめてください」
「んばか! なんで戻すんだよっ!」
と私の頭をわしゃわしゃとするレイモンド。
私はレイモンドが嫌いではなくなった。
「やめ、やめてくださいレイモンド」
「んだから戻すなって」
そうしてレイモンドとの旅は続いた。
レイモンドからは色んなことを学んだ。
中でも彼から教えて貰った上級攻撃魔法は今でも愛用している。そしてレイモンドと旅をして気付けば、五年の月日が経っっていた。私は十五になった。
それは何でもない、いつもの旅の夜。
「……はぁ……俺にはなルクス……」
突然レイモンドは話し始めた。
「嫁と、ガキがいるんだ。女の子だ……まだ産まれたばかりのな。今は六歳になったってところか。元気にしてっかなぁアイツら……」
レイモンドは焚き火の炎に照らされながら言う。
「心配なの?」
「当たり前だろ? 自分のガキを心配しねぇ親がどこにいる! ……だが置いてきちまった」
「……そうなんだ……帰ってあげたら?」
「……帰れねぇよ……俺はやらなきゃならねぇことが出来ちまった」
レイモンドは話し始めた。
どうやらレイモンドは冒険者協会から勇者のメンバーに抜擢されたようだった。それは等級が繰り上がり、自由になれない事を意味する。
「俺はもうじきSS級になる……そうなりゃ帰ったところでまた行かなくちゃなんねぇ……それに今俺が帰ったところで父親と思えるはずがねぇさ」
「……そうなんだ」
レイモンドは悲しい表情で言う。
私はそんなレイモンドに珍しく同情した。
「ルクス……もし俺のガキにあったら仲良くしてやってくれ」
「そりゃもちろん」
「……へへ、助かる。間違っても喧嘩なんかすんじゃねぇーぞ? 多分お前と同じ、負けず嫌いで生意気なガキになってるはずだ」
レイモンドは私の頭をわしゃわしゃとして言う。
そしてこの日の夜を最後にレイモンドは居なくなった。
私は酷く落ち込んだ。
次の日、私は何もやる気が出なかった。
今まで一緒にいたレイモンドが居なくなったからだ。
あの男は軽薄な男だ。手紙のひとつも残していかなかった。
私に生きる術だけを教えらどこかに消えた。
私はこのままではいけないと一人で旅を続けることにした。
冒険者になる為ミスタリス王国という街に行くことにした。
そこは冒険者が数多くいるという国らしい。
私は早速、ミスタリスの冒険者協会にいった。
冒険者登録をしたところ、いきなりS級判定された。
使える魔法、そして今までの実績などを聞かれた。
使える魔法はレイモンドに教えてもらった上級攻撃魔法を。
実績は、レイモンドとの旅の途中で倒したマンティコアやワイバーンの群れなどを報告した。
それを聞いた受付のお姉さんは慌てた様子で、
誰かと通信魔法で会話をし、話を終えた後私にこう言った。
「国王がお待ちです。あの城に向かって下さい」
「……え?」
私は意味が分からなかった。
私は受付に言われた通り城に向かった。門番の人は快く開門してくれた。事前に話を聞いていたのだろう。
そして私は国王がいるという王室に来た。
「初めまして、私はエルブレイド・スタイリッシュ。ここミスタリスの国王だ」
「……は、はじめまして、ルクス・セルロスフォカロです」
国王と名乗る人物の左右には、ちょび髭の男とそしてもう片方には小さな女の子が立っていた。
「はじめまして! エルザ・スタイリッシュだ!」
「コラ! エルザ! 敬語を使わんか!」
「え、でもおじいちゃんも使ってないじゃない!」
「わしはいいんだ! ……ああすまないでこいつが――」
「息子のエルフォード・スタイリッシュです」
「ああ! パパずるい! 私が先におじいちゃんに言われたから、今敬語使ったでしょ! 敬語使う気無かったでしょ!」
「エルザちゃ……エルザ、少し黙りなさい」
「ああー! パパいつもと違うっ! イテッ! ……おじいちゃんがぶった!!」
最初の印象は賑やかな家族、そう思った。
だが、この家族只者じゃない。そうも思った。
エルブレイドと名乗る人物もそうだが、エルフォードも強い。そしてお転婆なお嬢様という言葉がしっくりくる女の子、エルザ・スタイリッシュ。彼女もこの年でかなり強いのが私ですら分かる。
そしてエルブレイドが口を開いた。
「すまない、ルクス殿。騒がしい者たちで」
「いえ、大丈夫ですよ……で、国王様が私なんかを呼び出してなんの御用ですか?」
「ルクス殿、君はかなり強いな。私には分かる」
「……はぁ、そうですか」
私はしっくりこなかった。
自分が強いと言われるのもそうだが、私以上に強い者にそれを言われてもという気持ちだった。それが、少し嫌味に聞こえた。
「ルクス殿にはS級冒険者になって頂きたいのだ」
S級冒険者とは、国絡みのクエストを請け負う冒険者の等級である。もちろん他の以来も受けることは出来るが、基本的には国絡みのクエストがメインに受ける事になる。
「私なんかがS級ですか……」
「断ってくれても構わない……だが相応の報酬は出る」
エルブレイドはS級冒険者のメリットについて話始めた。
・クエストを受けなくても国から一定の報酬が毎月支払われる。
・基本的に拘束などは無く自由。
・ただし、国から要請があった場合、必ず引き受けること。
この三つだそうだ。
一定の報酬というところで私は額を聞いたところ目が飛び出そうになった。かなり豪華な額であったのだ。
少なくとも食べ物には絶対に困らない。
私は悩んだ。特に三つ目だ。この〝国〟というのは、ミスタリスのことだろう。しかし答えはすぐに出た。
「……分かりました。引き受けます」
「良かった。ではよろしく頼む」
「はい」
こうして私はS級冒険者となり、旅に出た。
その間色んな魔法使いに会い、魔法を暗記した。
そして詠唱を唱えるとそれを全て使えた。それは攻撃、魔法、防御、回復、全てだった。この時私はようやく自分の『祝福(さいのう)』を理解した。
私は『あらゆる魔法を扱える』のだと。
それから私がS級冒険者になってからは、
何度かミスタリス王国から呼び出しがあった。
中にはしょうもない……些細なこともあった。
そして最後に受けた呼び出しの内容は、
【回復魔法しか使えない少年に魔法を教えてあげてほしい】
との事だった。
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