第2話 「友達」

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第2話 「友達」

 そして俺は五歳で魔法に目覚めてからというもの、  ほとんど毎日母から魔法を教わっていた。   「でね、次はこうして――」    母は教えるのが上手だった。  そんな母の元で魔法を教わった甲斐あって俺は、五歳で『ヒール』『ハイヒール』とC級相当のヒーラーが使える回復魔法を会得した。   「あなた! この子すごいわ! まだ五歳なのに『ハイヒール』まで覚えちゃったわ!」 「凄いじゃないか! 流石は俺たちの子だ!」 「ありがとう、父さん、母さん!」    今にして思えばヒーラーとして、  一番楽しい時期だったと想う。  何かを学ぶというこの時間がとても。   「次はね! 支援魔法を――」 「待て待て、次は剣だ! 剣術を教える番だ!」 「……分かったわよ。じゃあまた後でね!」 「……よし。では次は剣術の時間だ。ヒーラーといえど自分の身は自分で守れるに越したことはないだろう。いつかきっと役に立つはずだ」 「分かりました、父さん」    これは正直一番活きている。  この頃の父は俺が回復魔法しか使えないとは知らなかった。  だが、回復魔法しか使えない俺にとってこの剣術の特訓はあまり面白いと思えるものではなかった……剣術の才能がある訳ではないのだから。     「踏み込みが甘いぞ!」 「はいっ! 父さん!」    父の剣術の特訓はかなり厳しいものだった。  さすがは現役のA級冒険者だ。  手加減しているとはいえ、五歳でも分かる強さだった。  そんな強さをもつ父が俺は誇らしかった。    ***    二年が経った。  俺は七歳になった。   「ごめんなさい、母さん」 「謝るのは母さんの方よ。教えるのが下手でごめんね……」    正直俺は吸収がかなり早かったと思う。  既に『ヒール』とその上の『ハイヒール』を使用できるからだ。特に『ハイヒール』はC級相当のヒーラーでも使える者は半々といったところだろう。  そんな吸収の早さに驚いた母は、  自分が覚えている限りの支援魔法を俺に教えようとした。  結果はというと――   「僕、才能がないのかな?」 「なにをいってるのよ! 七歳で『ハイヒール』まで使えるなんて子はなかなか居ないわ! 私だって会得するのに三年はかかったんだから……!」 「でも……それは二年前のことで……あれから僕何も覚えられてないよ?」 「大丈夫! きっとなんとかなるわ!」    なんとかなる! これは母の口癖だ。  支援魔法を使えないヒーラー。  回復しか使えないヒーラー。  母はそんなことは気にしないと諦めずに最後まで魔法を教えてくれた。支援魔法はもちろん最後まで使うことは出来なかったが。    そして三年後。  俺は十歳になった。   「はあ!」 「いいぞっ! 次はフェイントなんかもいれると――」    父は大振りで剣を振ると見せかけて蹴りをかましてきた。   「うわっ!」 「はっはっは! どうだ! 父さんのフェイントは!」 「父さん、ずるいよ!」 「生きるのに必要なズルすぎる、ズルスキルだ!  ズル父さん直伝の技だ! 必要な時に使え! はっはっは!」    ちなみにこれは後に活きた。    十歳になって分かったことがある。俺は友達がいない。  ずっと毎日、朝は母の魔法の勉強、昼は父との剣術の特訓。  それが普通だと思っていたし、別になにも思うことは無かった。    この時までは――   「すみませーん」    我が家に客人がやってきた。  こんな田舎の小さな家に来客だ。   「はいはーいちょっと待っててくださ~い」    母が扉を開けると、   「初めまして。あのー、いきなりですみません。  実はこの子が剣術を習いたいと……」    若い母親と俺と同じくらいの歳の女の子が訪ねてきた。   「えっと……あなたーー! お客さんよー!」 「なんだー?」 …… ………… ……………… 「なるほどこの子がですか?」 「はい、この子剣術の才能があるんです」 「それはいつ頃のことですか?」 「六歳の時です。うちは私も旦那も魔法しか分からず、魔法を教えようとしましたが、魔法は全然覚えられなくて。ある時どこからか拾ってきた木の枝をブンブン振り回していまして……」 「えっと……それで剣術の才能があると?」 「はい、ダメでしょうか……?」    若い母親だ。胸も大きく少し谷間が見えていた。  父はそんな隙間を逃さなかった。  やれやれだ。だが俺はそんな父親の血を継いでいる。   「も、もちろん大丈夫ですとも!!」    父も男だった。  母は家事をして気づいてはいなかった。   「ありがとうございます! ではこの子をよろしくお願いします」 「はい、任せて下さい!!」    こうして一人の小さな女の子を残して母親は帰って行った。   「……さて、ええっと、きみお名前は? 歳はいくつ?」 「……レイラ……です。十一歳になります」 「レイラか、いい名前だ。剣術を習いたいって?」 「……はい、レイラは剣術が習いたいです」 「もちろん大歓迎だ。だが、俺の剣術修行はきついぞ?」 「大丈夫です。レイラは強くなってパパとママを楽させてあげたいんです」    レイラ。黒髪のロングヘアーに上下とも可愛いピンクのフワフワの服を着ていた。恐らく部屋着だろう。  極めつけは耳だ。猫耳があった。  いわゆる亜人だ。その中でも獣人と特段珍しいことでは無い。   「可愛い耳だね」    父の後ろでずっと話を聞いていた俺は、  猫耳の少女に声をかけた。   「ありが……とう」    どうやら人見知りらしい。  俺はこの子を素直に可愛いと思った。  そして、仲良くなりたい、そうとも思った。   「今日からお前の友達であり、ライバルとなる子だ。自己紹介しなさい」 「分かった!」    こうして俺は剣術仲間が増えた。  俺の後の大切な人となる子だ。     「初めまして! 僕の名前は、アスフィ! アスフィ・シーネット」 「は……初めまして。レイラの名前は、レイラ・セレスティア……です」    俺に新たな友達ができた。
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