4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
実際には、女に言ったほどに覚悟ができているわけではなかった。
後世から非難されるならまだいいのだ。王都の生き残りの集団が全滅すれば、私たちのこの苦闘さえ歴史の波の下に消えてしまう。
なんとかしてつなぎたかった。
命を。
女にはあっさりとした顔を見せたが、私は必死だった。
外戚の末端。私は女にそう言った。
掛け値なくほんとうのことだ。父にとって私は、使い道のない余分な子供だった。
――お前のような無意味な者にも飯を食わせている。
感謝を示せ、と頭を踏みつけられながら言われたことがある。
そんな扱いを受けながら王宮を離れなかったのは、なにか立派な理由があったからではない。
ただ怖かったのだ。
一人のただの男として、自分の真価を問われるのが。
私は空っぽだ。
女に言われるまでもなく、私は絹の衣をまとったでくのぼうにすぎない。
何かを成し遂げたこともなく、褒められたことも愛されたことも恐れられたこともない、透明な存在だった。
だから、私は必死だった。
ぼろが出ないように、自分の正体を皆に見抜かれないように、必死でそれらしい人間としてふるまった。
もちろん、そんな生き方がいつまでも続くわけがない。
二週間後、三つ目の井戸を浚う作業の過程で、私は失敗をした。
最初のコメントを投稿しよう!