四十日四十夜の後

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  その後しばらくして、カツンという音が床に響いた。杖の音だ。  部屋の隅にいたナタンが立ち上がって、こちらに歩いてくる。私の隣に腰を下ろすまで、ずいぶん時間がかかった。 「間違っていると思うか?」  私はナタンに尋ねた。  「いいえ。私はあの方を信じます。あの方は私たちのためによく尽くしてくださいました。食事を作り、配り、水を運び、怪我や病の者の面倒をよく見ていました。皆、頼もしく思っていました」 「そうだろうな」 「あの方にはどこか気品があります。盗賊だったそうですが、生まれながらの庶民とは思えません。あの方はいつも、自分の分け前を近くにいる誰かに分け与えてしまいます。このような時に、血縁でさえない者に対して。そういうことは、私たち平民にはできません」 「王家の人々を十人近く殺したのだ、盗賊には違いないがな」 「帰ってこられたら、あの方をどうなさるおつもりですか」 「さあな。たぶん、その時まで私は生きていないよ」 「それでは困ります。エサウ様、あなたは私たちの柱です。まだ死んではなりません。神がお許しになりません」  ナタンは静かに、しかしはっきりとそう告げた。  洪水を起こして王都を住民ごと消滅させるような神を、まだナタンは信じている。  驚いたが、私は何も言わなかった。 「やれやれ、面倒なことだ」  ただそうつぶやいて、壁にもたれ、目を閉じた。  怪我の痛みが赤黒く明滅していたが、やがて、救いのように眠りが訪れた。     
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