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まばゆい青空の下で目覚めた。跳ね起きようとする身体を乱暴に押し戻された。
枕もとに女が座っていることに気づいた。
「邪魔しないでくれ、私は行かなければ……」
「よく見ろ、もう全部終わっている」
叫ぶ私に女がめんどくさそうに応じ、
「おまえは起きるたびに同じことを言う」
そう付け加えた。
若い女だった。私といくつも違わないだろう。見覚えがある。最近のことではない。遠い記憶がうごめくのを感じる。
「まだ寝ていろ。もう、雨は上がったのだから」
顔を見つめる私の視線をかわし、女は空を見上げ、そう言った。
夢の中はいつも豪雨だ。
暗い。
降るというよりも、雨混じりの大気が荒れ狂っている。
大河があふれ、城外のあらゆるものを押し流し、水底に沈めた。
城壁の内側が無事だったのも、最初の二日までだった。
洪水が城壁を壊した。場内に避難していた人々もろとも、数百の家屋が雪崩れこんできた水流に飲み込まれた。城壁や家屋の破片がさらに人々を襲った。
私は人々を助けるために奔走した。
差し伸べた手の先で、いくつもの顔が闇に消えていった。手をつかめた人々も、怪我や疲労のために死んでいった。
誰もかれもが疲れ果てていた。それでも雨は止まなかった。
目覚めた。青空が見えた。
私は跳ね起きようとし、乱暴に押し戻された。
この状況は既に経験している。この時の私は、かすかにそれをおぼえていた。
「また説明が必要か?」
女が相変わらず枕もとに座っている。
「いや、大丈夫だ」
「少し水を飲め。貴重品だ、大事に飲め」
そう言って、革袋を私の手に握らせた。
皮肉なものだった。周囲は水であふれている。ルツの王都は水没して、城壁の半分ほどが残っているばかりだ。それなのに、飲用できる水はわずかしかない。目に映る水面はすべて赤黒く濁っており、その下では無数の死体が腐っているのだ。
「アララテの山上に箱舟を作っていた男がいたな。憶えているか」
私が返した革袋を受け取り、女は脈絡のわからないことを言った。
「世界がこうなる、ずっと以前のことだ。皆笑って見ていたが、先見の明があったのだな」
「何日経った?」
「雨が降り始めて止むまでが四十日。雨が止んでから今日で五日だ」
「皆、死んだか」
「ああ。だから安心しろ。おまえにできることはもう何一つない」
あっさりと、何の感情も込めずに、女はそう言った。
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