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◇ ◇ ◇
「おはよ~」
「あ、早弓! おはよ!」
翌朝。講義室に入って挨拶するなり、友人の朝美が勢いよく声を掛けて来る。
「ねえ、聞いた!?」
「は? なんかあったの?」
「七恵ちゃん、最近元気なかったじゃん? 彼と別れたんだって!」
いきなり声を潜めた彼女の口から出たのは、同じ学科の親しい友人の名だ。
「そうなんだ。……だから悩んでたのかな。七恵ちゃんはまだ好きで──」
「逆よ、逆! そいつDV男だったらしいよ!」
意外な事実に言葉が詰まる。確かにどこか沈んで見えるとは感じていたが、そこまで深刻だとは思いもしなかった。
「え……、何それ!? そんなの知らなかった」
「私もよ。相談してくれたら、ってまあ言えないよね。わかるけど、友達なのに何も知らなくて、……何もできなかったの悔しいよ」
口先だけではなく、苦しそうに絞り出して顔を歪める朝美。
「でもよくすんなり別れられたね。いや、揉めたのかもしれないけど」
「家族に打ち明けて、お兄さんに話し合いについて行ってもらったんだってさ。そういう男って弱い女の子にはエラソーに威張ってても、自分より『上』だと思う相手には何も言えないらしいから。……でもホント良かったわ」
頷いてふと巡らせた視線の先、七恵が他のクラスメイトと話していた。柔らかな笑顔。
ここしばらく目にしていなかった、と今更のように思い当たる。
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