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「早弓の彼みたいな誠実で優しい人が一番だよ~」
「え、あ、そう……かな」
唐突な友人の言葉にどう返していいかわからなかった。曖昧な相槌にも、彼女は気にした様子もなく話を続ける。
「堀田くんて、えーとゴメン。ちょっと真面目くんっていうかいい人過ぎて、面白くなさそうだなと思ってたんだ。いや、ほんとゴメン! でも早弓、見る目あるよ。って言ったら七恵ちゃんに悪いか。いや、あの子の場合は『見る目ない』んじゃなくて、外面いいDV野郎に騙されただけだから!」
「それはそう思う。なんかそういう奴ってすごい上手いんでしょ? で、付き合ったら豹変するらしいじゃん? 周りにはいい顔するからなかなか信じてもらえないとか聞いたわ」
「だから言い出せなかったのかな……」
講義開始を知らせるベルに、そこで話を切って指定席に着いた。
誠実で優しくて、……面白味がない。
その通りだ。刺激のない日々に飽き飽きしていた。穏やかな恋人を、いつしか退屈な男だ、と感じてしまっていたのだ。
昨日会っている間、彼に笑顔を向けただろうか。ずっとつまらなそうな表情を晒していたのではないか。
それでも気分を害することなく、体調を気遣ってくれた優しい恋人。
早弓が梅雨の間はあまり調子が安定しないのも、彼はよく知っている。
そこがよかったはずなのに。
最初は間違いなくそうだった。中学生でもあるまいし、大学生にもなって自己中心的で幼稚な男に魅力を感じなかった。
だからこそ、その対極にいた賢人に惹かれたのだと思う。
確かに存在した愛情が、いつの間にここまで薄れていたのだろう。
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