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「ね、ねえ! あたしの部屋、すぐ傍なの! 知ってるよね!? 雨宿りしていかない?」  期待通りに降り出した雨に、思い切って切り出した。もっと降り続くよう念じながら。 「え、……でも、早弓ちゃん一人暮らしだよね? 女の子一人の部屋になんて──」 「いいから! このままじゃずぶ濡れになっちゃう! あたしが濡れたくないの!」  戸惑いながらも固辞する雰囲気の彼に、有無を言わせないよう言葉を被せる。 「やっぱり僕、ここにいるよ。降るって言ってなかったしすぐやむと思う。だからそれまでいさせてもらえば。早弓ちゃんは早く入って。やっぱり女の子の部屋はちょっと、その……」  雨脚に追い立てられるように走って、辿り着いた部屋。解錠してドアを開けた早弓に、今更のように彼は尻込みした。 「あのさあ、部屋の前にこんな濡れた男が立ってる方が迷惑なのよ。わかんない?」  ここまで来て逃がす気はない、とばかりに自然口調も強くなる。 「あ、あ! じゃあ傘借りて帰──」 「もう、あたし濡れて気持ち悪いんだって。さっさと着替えたいのよ! ほら入って!」  強引に腕を掴んで玄関に引っ張り込んだ。  あれが、二人の始まりだった。  文字通りの通り雨で、降っていたのはほんの数十分。  しかし賢人が早弓の部屋を出たのは、雨上がりどころかもうすっかり夜の(とばり)も降りた頃だった。  特に何をしたわけでもない。ただ二人で一緒に過ごす、それだけで幸せを感じた。
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