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一哉(かずや)、傘持って来てないでしょ? しょうがないから入れて帰ってやろうか?」  二年四組の教室を訪ねて余裕たっぷりに声掛けたあたしに、一哉は嫌そうに顔しかめた。何よ、それ! 「いや、いらねえ。他の子に貸してもらうことになってるから」  そう口にして、彼はちらっと後ろを見た。視線の先にいたのは、確か去年も一哉と同じクラスだった女の子。  えっと水島(みずしま)、……そう、侑香(ゆか)だ。  おとなしくて目立つようなことしないけど、入学したばっかの頃からかなり可愛い、って他のクラスでも評判だったから覚えてる。  ──いま、一哉に小さく微笑んだ顔は確かにキレイだよね。 「ええ~。どうせ同じとこ帰るんだから、一緒でいいじゃん」  幼稚園の頃からマンション同じ階の二軒隣に住んでる二人。  高校まで園も学校もずっと一緒の、所謂幼馴染みってやつ。だけど中学の頃から少しずつ距離が開いて、あたしは内心焦ってた。  物理的にはもちろん、気持ちの方も。  あたしは一哉のことずっと特別に想ってるんだ。  好き、だった。ううん、今も好き。  だから少しでも関わり増やしたくて、ことあるごとにこうやって絡んで行くんだけど、一哉の反応はあんまりよくない。どうして?  小学校時代は周りの男子もガキっぽくて揶揄われたりしてたから、それを気にしてたのかもしれない。でも、中学以降はそんなのも減って来てた。  なのに肝心の一哉の気持ちが読めなくて、すごく不安なの。 「俺寄ってくとこあるし、お前と帰る気なんかない。……あと、『一哉』はもうやめてくれよ」  ぶっきらぼうにそれだけ言って、あたしと目も合わせない一哉。  そういえば、いつの間にかあたしのことも『佐和子(さわこ)』って呼ばなくなってた。『間宮(まみや)』なんて他人行儀な──。  水島さんに傘借りて、……そのまま一緒にどこか行くの!? まさかね、他の男友達とに決まってる。  訊こうにも、一哉はもうあたしと話したくなさそうな様子で教室の中に戻り掛けてた。  なんなんだよ、いったい。
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