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【2】
家に帰った時、ドアの脇に放り出したままだった濡れた傘。
あとから帰って来たお母さんに注意されて、仕方なく外に出る。玄関の前で傘を畳んでたあたしは、たまたま一哉が廊下を歩いて来たのに気づいた。
制服姿で、オレンジの花柄の可愛い傘を持って。
「今帰り? こんな時間までどこ行ってたの?」
「……なんでお前にそんなこと訊かれなきゃなんねーんだ? いちいち詮索すんなよ」
一歩近づいて何気なく訊いたあたしに向かって、眉を顰めた一哉が憮然として答える。
今までは何気なく聞き流してた尖った声が、今日は何故かはっきり胸に突き刺さった。
だからつい……。
「その傘、もしかして水島さんの?」
たった一人思い当たる女の子の名前を口にしたあたしに、目の前の彼が瞠目する。
「どうしてお前がその名前──。そもそもお前は俺の家族でも何でもないし、全然関係ないだろ? 彼女に何か言ったら許さねーからな!」
一哉の、まるで敵に対するような冷たい口調。
「何、って。あたしが何言うってのよ!」
「お前、うぜーんだよ。いっつも上から目線でえらそーに命令ばっかで。俺だけならまだ我慢するけど、水島さんには絶対に迷惑掛けんなよ!」
いい加減にしてくれ、って吐き捨てて、一哉は二つ手前の自分ちのドアを開けてあたしの視界から消えた。
──うぜーんだよ。命令ばっか。
一哉の言葉に背筋が冷えて行く気がした。まるで雨が降り注いで濡れたみたいに。
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