おばあちゃんといっしょ!

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祖母の様子がおかしくなったのは2015年の春頃だった。 「昼寝をしていると、男の人が玄関を開けて怒鳴っていた」という祖母の言葉を最初は信じていた。 私が外出している時に誰かが訪ねてきたのではないか? 老人会仲間が祖母を訪ねてきて、引き戸の玄関を開け祖母の名前を呼ぶ声が怒鳴り声に聞こえたのではないかと、そう思っていた。 祖母と私は同じ住所だが、1つの土地に家が2つあるので、一緒に暮らしている訳ではない。 それでも同じ土地に住んでいるのだから、1日に一度や二度は顔を合わせていたのだが、幼い時から祖母や祖父とは衣食住を別にしていたので、お互い特に干渉せずに暮らしていた。 旅好きの祖父は祖母を連れて年に何度か旅行に行っていたし、歌が好きな祖母は民謡を練習して老人会の発表会で披露していた。 2010年、83歳になった祖父が亡くなり、祖母は話し相手を失った。 だから祖父に代わって私が祖母の話を聞くようになった。 ある日の朝、どこからか仔猫の鳴き声が聞こえてきた。 祖父が亡くなってから3年経った9月のことだった。 その日は、私が月に2回の頻度で通っていた漫画のカルチャースクールに行く日だった。 祖母と鳴き声の行方を確かめてみることにした。 庭の一角……やや鋭角になったブロック塀の内側に、市に回収してもらう予定の壊れた洗濯機を置いていたのだが、ちょうど三角形になっていたその隙間にとても小さい仔猫がいた。 「猫がいる!」 私が告げると、祖母が洗濯機の裏側を覗こうとしたが、身長が低い祖母には見えなかったらしい。 人間の気配に気付いた仔猫が洗濯機の下の隙間にモゾモゾと潜り、やがてこちら側に出てきた。 出てきた仔猫を祖母が両手で持ち上げる。 手の平サイズの仔猫は目が開いておらず、目の周りには黒い物がこびりついているように見える。 「これは目が潰れてるん?」 私が聞くと「これは目やにやな」と祖母が言った。 「親猫が置いていったんかな?」 「どうやろ。ガリガリやし、スキムミルクでもやろか」 祖母はそう言って仔猫をいったん地面に下ろし、しばらくして、溶いたスキムミルクをプラスチックの容器に入れて持ってきた。 「砂糖も入れてみてん(ヘヘッ」 「『猫は甘いのが分からん』ってテレビで言ってたで」 「そうなんけ?」 祖母が容器を仔猫の鼻に近付ける。 目が開けられずスキムミルクが見えていないであろう仔猫は、小鼻をひくひくと動かし匂いは嗅ぐものの、舐めようとはしない。
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