雨と音と君と虹

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 演奏が終わり、広場のあちこちから疎らな拍手が聞こえてくる。その中で僕は、誰よりも大きく手を叩く。  この自由になった両手は、疾うの昔に傘を投げ出していた。だって折角の雨だ、その優しさを全身で受け止めなくてどうする。  目の前の小さな舞台で、律儀に角度の決まったお辞儀をする女性。いつの間にか雨は止んでいて、彼女の背後には大きな虹が架かっていた。  キラキラと七色の輝きを放つそれを見て、僕はふと昔の記憶を思い出す。  それは高校生の時、英語の授業での事だった。  虹は英語で『rainbow』と書く。その『rainbow』の訳を英語教師は説明の中でこう言ったのだ。  『まずはいつも通り、 rainbow を「rain」と「bow」に分けて考えてみようか。 rain は言わずもがな「雨」だ。そして、 bow は―――』  ―――お辞儀だ。  雨の後に虹が架かるのは、雨というパフォーマンスを終えてお辞儀をしているからだ。当時、僕はそんな解釈をした。  そして今、改めてそれを実感する。  舞台から下りた彼女の視線が僕へと向いた。そのまま口角が上に伸び、綺麗な弧を描く。あっという間に、逆さ虹の完成だ。  彼女は、こちらを目掛けて駆けてくる。溢れんばかりの満面の笑みと、髪から零れ滴る雫と一緒に。  「天芽」  僕は愛しい恋人の名前を呼ぶ。彼女と同じく濡れた身体で、そして緩む頬で、彼女を抱き締めた。  ―――今日、また『雨』をひとつ、好きになった。  今にも泣き出しそうな程、薄暗い空が好き。  息を吸い込むと肺が圧迫されて、胸がいっぱいになるあの匂いが好き。  湿った空気と時に冷たく時に暖かい温度が好き。  身体の隅々にまで染み込んで、包み込むように優しい雨が好き。  社会人になった今、僕は『雨』が好きだ。  ―――雨は世界に、彩りを与えてくれる。
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